ゲームを作るには、「何を作るか決める」「作れるか確かめる」「作りきる」「出せる品質に仕上げる」「遊んでほしい人に届ける」「出したあとも面倒を見る」という段階を順に通ります。ゲーム会社ではこの流れを工程と呼び、段階の区切りごとに「マイルストーン」と呼ぶ到達点を置いて、進み具合と次へ進むかを確かめます。
本記事は、連載「インディーゲーム開発の全工程」の入口です。企画から発売後までの工程を順に短く紹介し、詳しい解説記事へ案内します。あわせて、工程の区分、マイルストーンの関係、工程が並行して進むこと、個人・少人数での進め方の例、AIエージェント(Claude Code や Codex のように、ファイルを読み書きしコマンドを実行しながら作業を進める AI)で工程がどう変わるかまで、1本で見渡せるようにまとめました。
工程の言葉の意味は、会社や資料によって違います。本記事では一般に多い使い方を示し、違いがある所はそう書いています。Steam の規則と数値は、2026年10月4日に Steamworks の公式ドキュメントで確認したものです。
夕宮たいだふぁ……みんな〜、今日はゲーム開発の「全体の地図」の話だよぉ。αROM とかバーティカルスライスとか、言葉だけ聞いたことある人も多いと思うんだぁ。どこで何をするのか、一緒に並べていこ〜。
ゲーム開発の全工程を1枚で見る
ひとことで:企画から発売後までの6つの段階が、それぞれ1つの問いに答えながら連なっています。
ゲーム開発の工程は、「答える問いの順番」として見ると覚えやすくなります。各段階で作る試作や途中の版は、その問いに答えるための材料です。段階の中では「決める→作る→遊んで確かめる→直す」を小さく何度も回し、段階の終わりに「進む・変える・やめる」を判断します。
| 段階 | 答える問い | 主な工程 | 終わりの目印(例) |
|---|---|---|---|
| 企画 | 何を作るか。作る価値はあるか | 企画、プロトタイプ、GDD、スケジュール、開発環境、資金の検討 | 試作の結論と企画書 |
| プリプロダクション | この品質で作れるか | グレーボクシング、バーティカルスライス | バーティカルスライス |
| プロダクション | 全部を作りきれるか | 素材と音の制作、実装、プレイテスト、バランス調整、ローカライズ | αROM を経て、βROM へ進める状態 |
| 仕上げ | 出してよい品質か | βROM、QA・デバッグ、最適化、提出 | マスターアップ |
| 発売準備(並行) | 遊んでほしい人に届くか | ストアページ、宣伝、体験版、権利と規約 | 近日登場ページの公開、発売日の決定 |
| 発売と運用 | 出したあとも続けられるか | 発売、アップデート、セール、移植 | 振り返り(ポストモーテム) |
ゲームデザイナーの Mark Cerny 氏は2002年の講演で、プリプロダクションとプロダクションは「昼と夜ほど違う」と述べ、プリプロダクションの終わりに完成品質のゲームの一部分を作って、続けるか中止するかを決める進め方を紹介しました(VGC の解説記事による)。段階の区切りを判断の場にする考え方は、個人の開発にもそのまま使えます。


工程の区分:プリプロダクション・プロダクション・仕上げ
ひとことで:試作で確かめる段階、本制作の段階、発売前に仕上げる段階の3つに分けるのが一般的です。
開発の中心部分は、次の3つに分けて呼ばれます。
- プリプロダクション(pre-production):作るべきか・作れるかを、企画と試作で確かめる段階
- プロダクション(production):本制作(量産)の段階。素材とプログラムの大部分をここで作る
- ポストプロダクション(post-production):この連載では「仕上げ(βROM〜マスターアップの、発売前の仕上げ)」の意味で使います。資料によっては発売後の運営を指すこともあり、ほかに「振り返り」や「アルファから発売まで」を指す資料もあります。意味が割れている言葉なので、本連載では迷ったら「仕上げ」と書きます
この連載では、企画と試作(プロトタイプ)までを「企画」、ステージの仮組とバーティカルスライスを「プリプロダクション」の記事として分けていますが、一般にはどちらもプリプロダクションに含まれます。また、ストアページや宣伝などの「発売準備」は、どこか1つの段階ではなく、開発と並行して進む別の流れとして扱います。
大きな会社では、段階の切り替わりで予算と体制を見直すことがあります。CEDEC+KYUSHU 2023 の講演では、試作の予算審査で約10%、α の予算審査で20〜25%、β の予算審査で残りの予算を承認する進め方が紹介されました(4Gamer の記事)。個人の開発でも、段階の終わりに「続ける・変える・やめる」を決める日を自分で決めておくと、終わりの見えないまま作り続ける事態を防げます。



ポストプロダクションって、本によっては発売後のことなんだぁ……むずかしいねぇ。この連載では「発売前の仕上げ」の意味だから、迷ったら「仕上げ」って読み替えてねぇ。
マイルストーンのはしご
ひとことで:プロトタイプからマスターアップまで、完成度の段を1段ずつ上がり、段ごとに確かめることが決まっています。
マイルストーンは、開発の途中に置く「ここまでできたら次へ進む」到達点です。パブリッシャー(販売や宣伝を担う会社)と組む開発では、契約上の提出物と支払いの条件にもなります。ただし、どの段で何がそろっていればよいかに業界共通の基準はなく、会社や契約で違います。次の表は一般に多い使い方の例です。
| 日本の呼び方 | 英語 | その時点の状態(例) | そこで確かめること |
|---|---|---|---|
| プロトタイプ | Prototype | 中心の遊びだけが動く、見た目を作り込まない使い捨ての試作 | 遊びが成立するか(作るべきか) |
| ファーストプレイアブル | First Playable | 主要な遊びが初めて通しで動く。会社によってはアルファと同じ意味 | 遊びの流れがつながるか |
| バーティカルスライス | Vertical Slice | ゲームの一部分(例:1ステージ、ノベルなら1章ぶん)が製品版に近い品質 | この品質で作れるか。1区画を作る手間はどれくらいか |
| αROM(アルファ版) | Alpha | 主な機能がそろい、最初から最後まで通して遊べる。仮素材が残っていてもよい | 全体の流れと遊びの量。足すか削るかの最後の判断 |
| βROM(ベータ版) | Beta | 機能と素材がそろい、不具合の修正と調整が中心になる | 出荷を妨げる不具合が残っていないか。性能と文言 |
| マスターアップ | Gold Master(ゴールド) | 製品版として確定し、量産や配信に回せる | 提出・審査を通るか。発売してよいか |
αROM・βROM は、α版・β版の段階で提出・確認用に作るビルド(実行できるゲームのファイル一式)を、日本の現場で「αROM」「βROM」と呼ぶことがある言い方です。ゲームがカートリッジの ROM で出ていた時代の名残です。「αROM=全機能、βROM=全素材」のような基準を見かけることがありますが、業界の決まりではありません。到達条件は、会社や契約ごとに文章で決めます。
段と段の間には、その種類の追加・変更を止める取り決め(フリーズ・ロック)を置くのが一般的です。新しい機能の追加を止める「フィーチャーフリーズ」(α を区切りにすることが多い)、素材や文言の追加・差し替えを止める「コンテンツロック(コンテンツフリーズ)」、バグ修正以外のコード変更を止める「コードフリーズ」などです。どの段に置くか、止めた後に何を許すか(多くの場合はバグ修正のみ)は会社や計画で違うので、計画の段階で決めておきます。
段の中身も固定ではありません。先に紹介した Cerny 氏の進め方では、プリプロダクションの終わりに作る「完成品質の一部分」を first playable と呼んでおり、ファーストプレイアブルとバーティカルスライスがほぼ同じものを指します。英語圏の資料では、マスターの直前に「リリース候補(Release Candidate)=重大な不具合が出なければそのまま製品になる版」を置く例もあります。





ほよ? αROM の「ROM」って、カートリッジ時代の名残なんだぁ。ダウンロードで売る今でも、呼び方だけ残ってるんだねぇ。
企画:何を作るかを決める
ひとことで:一言で言える面白さを決め、小さく試して確かめ、作れる規模と道具を決める段階です。
ゲーム企画(コンセプトとコアループ)
コンセプトは「一言で言える面白さ」、コアループは「プレイヤーが何度も繰り返す行動の輪」です(例:ローグライクのアクションなら「探索→戦闘→強化→また探索」)。誰に向けるか、似た作品と何が違うか、作りきれる規模か(スコープ)もここで考え、1枚の企画書にまとめます。似た作品は Steam のタグやユーザーレビューで調べられます。詳しくは「ゲーム企画の立て方」へ。
プロトタイプ
遊びが成立するか(作るべきか)を確かめる、使い捨ての試作です。確かめる問いを1つに絞り(例:「敵の弾を跳ね返すアクションは、3分遊んで楽しいか」)、期間を区切って作ります。カードゲームなら紙で作ってもかまいません。結果を見て、続ける・変える・捨てるを決めます。詳しくは「ゲームのプロトタイプとは」へ。
GDD(仕様書)
GDD(ゲームデザインドキュメント)は、ゲームの設計をまとめた文書です。決まった型はなく、日本では「企画書」(提案・合意用)と「仕様書」(実装用)に分けて呼ぶこともあります。一度書いて終わりではなく、開発中に更新し続けます。詳しくは「ゲームデザインドキュメント(GDD)の書き方」へ。
スケジュールとマイルストーン
作業をタスクに分けて見積もり、マイルストーンを置き、予備の時間(バッファ)を確保します。多い失敗は、作る範囲が後からじわじわ広がる「スコープクリープ」です。必須と「あれば良い」を分け、削る基準を先に決めておきます。詳しくは「ゲーム開発のスケジュールとマイルストーン」へ。
ゲームエンジンと開発環境
Unity・Unreal Engine・Godot・RPGツクール・ティラノスクリプトなどのゲームエンジン(ゲーム作りの土台になるソフト)から、作るゲームに合うものを選びます。利用条件はエンジンごとに違います(例:Godot は無料ですが、ゲームのクレジットなどにライセンス表記が必要です)。あわせて、変更の履歴を残すバージョン管理(Git など)とバックアップを用意します。詳しくは「ゲームエンジンの選び方と開発環境」へ。
資金とパブリッシャー
自分で売るか(セルフパブリッシング)、パブリッシャーと組むかを考え始めます。パブリッシャーへの売り込みでは、企画書とバーティカルスライスが主な材料になります。詳しくは「インディーゲームの資金とパブリッシャー」へ。
プリプロダクション:作れるかを確かめる
ひとことで:ステージを仮組みして遊びと大きさを固め、一部分を製品版の品質まで作って、制作の基準を決める段階です。
グレーボクシング(ステージ仮組)
グレーボクシング(ブロックアウトとも呼ぶ)は、単純な形でステージを仮組みし、遊びと大きさを先に確かめる工程です。キャラの大きさや移動・ジャンプの性能と、それに合わせた通路・扉・段差の寸法ルール(メトリクス)を決め、遊んで直します。2Dのステージや、ノベルゲームの画面の仮組にも同じ考え方が使えます。詳しくは「グレーボクシングとは」へ。
バーティカルスライス
ゲームの一部分を製品版に近い品質まで作り、この品質で作れることを示す版です。品質の基準を決め、制作の流れを一度通して詰まる所を見つけ、残りの量の見積もりに使います。パブリッシャーへの売り込みにも使われます。作り込みすぎてプリプロダクションが終わらない、という罠もあります。詳しくは「バーティカルスライスとは」へ。
プロダクション:作りきる
ひとことで:決めた基準に沿って素材と機能を量産し、αROM で全体を通して遊べるようにして、遊んで直す段階です。
アセット制作
アセット(絵・3Dモデル・アニメーション・UI など、ゲームに入る素材)を一覧表(アセットリスト)で管理し、サイズ・形式・名前の規則を決めて作ります。最初は仮素材で組み、本番の素材に差し替えます。外注では発注書を書き、納品物を確かめて受け取り(検収)、必要なら直しを依頼します(リテイク)。詳しくは「ゲームアセット制作の流れ」へ。
BGM・効果音
場面ごとに必要な BGM と効果音を一覧にし、ループ・ファイル形式・音量の基準をそろえます。作曲の依頼・購入素材・生成AI のどれを使うかで、権利の確かめ方も変わります。詳しくは「ゲームのBGM・効果音の作り方」へ。
αROM(アルファ版)
主な機能がそろい、最初から最後まで通して遊べる段階です。仮素材が残っていても、全体の流れと遊びの量を確かめられることが大切です。α を区切りに新機能の追加を止めること(フィーチャーフリーズ)が多く、ここから先は「足す」より「直す・削る」が中心になります。詳しくは「αROM(アルファ版)とは」へ。
プレイテスト
他の人に遊んでもらい、意図どおりに遊ばれているかを観察して直す工程です。説明せずに見る、考えを声に出しながら遊んでもらう、アンケートと記録をとる、が基本です。不具合を探す QA とは目的が違います。詳しくは「プレイテストのやり方」へ。
バランス調整
難しさ・お金や資源の流れ(経済)・テンポ・確率などの数値を直す工程です。数値を表で管理し、1度に1つずつ変え、プレイテストとデータの両方で確かめます。CPU 同士を何百回も自動で対戦させて数字を測る方法もあります。詳しくは「ゲームバランス調整の進め方」へ。
ローカライズ(多言語対応)
ゲームを他の言語・地域向けに作り変える工程です。文章をプログラムの外に出す、フォントを用意する、訳すと伸びる文字数に備える、といった下準備(国際化)を早めに済ませ、翻訳の後はゲーム画面の中で訳文を確かめます(LQA)。詳しくは「ゲームのローカライズ(多言語対応)」へ。
仕上げ:出せる品質にする
ひとことで:機能と素材を固めて不具合を潰し、提出や審査を通せる完成品にする段階です。
βROM(ベータ版)
機能と素材がそろい、不具合の修正と調整が中心になる段階です。素材や文言の追加・差し替えを止め(コンテンツロック。コンテンツフリーズとも)、性能の最適化と、動作環境(遊べるパソコンの条件)の確認を進めます。オンラインゲームで一般の人に遊んでもらう「βテスト」とは別の意味です。詳しくは「βROM(ベータ版)とは」へ。
QA・デバッグ
QA(品質保証)は、テストの計画を立てて不具合を探し、報告し、直ったことを確かめる工程です。不具合は再現手順をつけて報告し、重さと優先度で並べます。直した後に他の所が壊れていないかを確かめる回帰テストや、自動テストも組み合わせます。詳しくは「ゲームのデバッグとQA」へ。
マスターアップ
製品版として確定し、量産や配信に回せる状態にする最終工程です。コンソールでは発売前にプラットフォーム側の認証(任天堂のロットチェックなど)を通し、Steam ではビルドの審査を受けます。版番号を決めて提出したビルドを保管し、発売日に配る修正(デイワンパッチ)が要るかも判断します。詳しくは「マスターアップとは」へ。
発売準備:届ける準備を並行で進める
ひとことで:ストアページ・宣伝・体験版・権利の確認は、開発と並行して早めに始める別の流れです。
Steam ストアページ
Steam で売るには、Steamworks(Steam の開発者向け管理サイト)に登録し、作品1本ごとに $100 の手数料(Steam Direct)を払って、ストアページを作ります。発売前のストアページは「近日登場」として公開し、新しい作品は発売前に最低2週間公開しておく必要があります(2026年10月時点)。詳しくは「Steamストアページの作り方」へ。
宣伝とウィッシュリスト
ウィッシュリスト(Steam の「欲しいものリスト」)に入れてもらうと、発売時や一定以上の割引時に Steam から通知が届きます。SNS・開発ログ・トレーラー・配信者やメディアへの紹介・イベントで、発売前から少しずつ知ってもらいます。詳しくは「インディーゲームの宣伝」へ。
体験版(デモ)
ゲームの一部を無料で遊べるようにした版です。Steam では本編と別のアプリとして作り、年3回開かれる体験版の祭典「Steam Next Fest」に参加する道もあります。どこまで遊ばせるか、セーブを本編に引き継ぐかを決めます。詳しくは「体験版(デモ)の作り方」へ。
権利と規約
素材・フォント・音楽のライセンス、使ったソフトの表記、タイトル名の商標、生成AI の利用規約と開示、年齢区分(レーティング)などを確かめます。素材を入れるたびに台帳へ記録しておくと、最後に慌てずに済みます。詳しくは「ゲーム開発の権利と規約」へ。
発売と運用:出してから続ける
ひとことで:価格と発売日を決めて出し、不具合対応とアップデートを続け、必要なら他の機種へ広げる段階です。
発売(リリース)
価格(地域ごとの価格や発売直後の割引)と発売日を決め、発売前のチェックリストを確かめます。Steam では審査が通っても自動では発売されず、管理画面のボタンを自分で押した時刻が発売時刻になります。完成前から売りながら作る「早期アクセス」という出し方もあります。詳しくは「ゲームの発売(リリース)手順」へ。
発売後の運用
急ぎの不具合修正(ホットフィックス)、アップデートの計画、レビューへの返信、コミュニティの運営、セール、追加コンテンツ(DLC)を進めます。一区切りついたら、うまくいったこと・いかなかったことを振り返る「ポストモーテム」を書き、次の作品に生かします。詳しくは「発売後のゲーム運用」へ。
移植とマルチプラットフォーム
別の機種(家庭用ゲーム機・スマートフォン・Web ブラウザ・Steam Deck など)で出すための作業です。入力・画面・性能・認証・年齢区分が機種ごとに違うので、移植しやすい作り方を最初から意識しておくと負担が減ります。詳しくは「ゲームの移植とマルチプラットフォーム」へ。
工程の言葉をまとめて引きたいときは、「ゲーム開発用語集」を辞書として使ってください。
工程は一直線ではなく並行する
ひとことで:開発の流れの横で、ストアページ・宣伝・体験版・審査の流れが同時に進むので、発売日から逆算して始めます。
工程を順に並べると一直線に見えますが、実際には複数の流れが同時に進みます。とくに Steam では手続きと審査に決まった待ち時間があり、完成してから準備を始めると発売日に間に合いません。2026年10月時点の公式ドキュメントでは、次のように決まっています。
| 項目 | 公式の条件(2026年10月時点) |
|---|---|
| Steam Direct(作品の登録) | 1本ごとに $100。支払いから発売まで最低21日(2026年9月に公式ドキュメントが30日から書き換わった。紹介ページは30日のまま) |
| ストアページの審査 | 通常3〜5営業日。公開したい日の7営業日前までの申請を推奨 |
| 近日登場ページ | 発売前に最低2週間公開する |
| ビルドの審査 | 通常3〜5営業日。ストアページを審査に出した後でないと申請できない |
| 発売日の変更 | 予定日の2週間前を過ぎると変更できない |
| Steam Next Fest | 年3回(2月・6月・10月)。1作品1回だけ。登録の締め切りは回ごとに告知(直近の回は開催の約6〜7週間前) |
出典:Onboarding、Review Process、Coming Soon、Release Dates、Steam Next Fest
並行の代表的な例は次のとおりです。
- ストアページと宣伝:遊べる画面を見せられるようになった頃(多くはプロダクションの途中)から始める。ウィッシュリストは近日登場ページの公開後にしか集まらない
- 体験版:βROM を待たずに準備する。範囲を決めて本編と同じ品質で切り出す作業が要り、Next Fest に出るなら締め切りから逆算する
- 翻訳:文言が固まる時期から逆算して発注し、仕上げの期間に画面での確認(LQA)を入れる
- 権利の確認:素材や道具を入れるたびに台帳へ記録する。最後にまとめると差し替えが間に合わない
- 内容の申告:Steam の Content Survey(年齢区分や生成AI の利用を申告する質問票)は、ストアページとビルドの審査より前に記入する
筆者の麻雀ゲーム「つみこめ!イカサマ魔法麻雀」でも、Steam 側は「$100 の登録→アプリの発行→ストアの審査→近日登場から発売まで最短2週間→ビルドの審査」と待ちが続きました。いちばん時間のかかる素材(カプセル画像・スクリーンショット・予告編)は、アプリの発行より前から並行して作り始めています。



ぁぅ……「完成してからストアページ」だと、審査と2週間の待ちで発売日がずれちゃうんだよねぇ。発売日からの逆算、気をつけてねぇ。
個人・少人数の進め方の例
ひとことで:段階は大きな会社と同じでも、1人が複数の流れを持つので、段階の終わりの判断と並行の段取りがより大切になります。
個人・少人数では、企画・実装・絵・音・宣伝を同じ人が受け持ちます。工程の名前は同じでも、書類は軽く、判断は速くし、並行の段取りは自分で組みます。次の表は、1〜3人で2Dのアクションゲームを約1年で作る場合の例です。月数は説明のための目安で、業界の平均ではありません。作品の規模と、1日に使える時間で大きく変わります。
| 時期(例) | 段階 | 主な作業 | 並行して進めること | 終わりの目印 |
|---|---|---|---|---|
| 1〜2か月目 | 企画 | コンセプト、プロトタイプ2〜3本、1ページの GDD、エンジンとバージョン管理 | 類似作の調査 | 続けるかを決める |
| 3〜4か月目 | プリプロダクション | グレーボクシング、1ステージのバーティカルスライス | 残りの量の見積もり、外注先の検討 | 品質の基準が決まる |
| 5〜8か月目 | プロダクション | 全ステージの素材と機能、プレイテスト | ストアページの公開、SNS と開発ログ | αROM |
| 9〜10か月目 | プロダクション〜仕上げ | バランス調整、ローカライズ、体験版 | 体験版の公開と宣伝 | βROM |
| 11〜12か月目 | 仕上げ〜発売 | QA・デバッグ、Steam の審査 | 価格と発売日の決定、報道や配信者への案内 | マスターアップ・発売 |
3か月で出す小さなパズルゲームなら、企画とプロトタイプを2週間に収め、プリプロダクションは「1面を完成品質で作る」だけに絞る、といった縮め方をします。一方、近日登場の2週間や審査の日数は、規模が小さくても縮みません。
規模の違う例も見ると、幅がつかめます。CEDEC2026 では、アナログのカードゲームを α(約2か月・カードの種類を決める)→β(約3か月・商品に近いカードセットで実戦テスト)→マスター(約3か月・バランスを調整して入稿できる状態に)と進めた例が紹介されました(GameBusiness.jp の記事)。大規模な開発の例では、Heather Chandler 氏の『The Game Production Handbook』(2009)が、2年の開発でファーストプレイアブルをコードリリース(出荷や審査に出せる版)の12〜18か月前、ベータを2〜3か月前に置いています(Wikipedia の解説による)。どちらも条件の違う例なので、月数ではなく、段階の順番と「何を確かめてから進むか」を借りてください。
AIゲーム開発の全体像
ひとことで:AI は「作る・試す・調べる」を速くしますが、何を作り何を捨てるかの判断と、外部の審査や待ち時間は速くなりません。
AIエージェントを使うと、多くの工程で手を動かす部分が速くなります。ただし工程そのものは消えません。どの工程も、人が決めること・人が確かめることが残り、むしろそちらが進み具合を左右するようになります。
工程ごとの早見表
| 段階 | AI に任せやすいこと | 人が決めること・確かめること |
|---|---|---|
| 企画 | 類似作の調査の下書き、アイデアの叩き台を多数出す、企画書の体裁 | 何を面白いとするか、誰に向けるか、やらないこと |
| プロトタイプ | 遊びの試作を数案、数値だけ変えた版を並べる | 触って続ける・変える・捨てるを決める |
| 仕様・スケジュール・環境 | 仕様の抜けの洗い出し、タスク分解の叩き台、ビルドとテストの仕組みづくり | 優先度と削る範囲、締め切り、変更の記録(コミット)と公開の権限 |
| プリプロダクション | グレーボックスの配置、バーティカルスライスの実装 | この見た目・手触りで行くという品質の基準 |
| アセット・音 | 画像や曲の初稿、規格の機械チェック、名前の付け替えや変換 | 絵柄と音の方向性、検収、権利 |
| 実装〜αROM | 機能の実装、開発用のデバッグ機能、自動テスト | 仕様どおりか、遊んで面白いか |
| プレイテスト・バランス | 自動対戦での計測、指摘の再現と裏取り | どの指摘を採るか、難しさの狙い |
| ローカライズ | 一次訳、未翻訳や文字あふれの検出 | 訳語の方針、母語話者による画面での確認 |
| 仕上げ〜マスターアップ | テストの大量実行、配布物の中身の検査 | 出してよいかの判断、版番号、提出 |
| 発売準備〜運用 | 説明文やタグ候補の下書き、翻訳、不具合の原因調査、パッチノートの下書き | 作品の顔になる画像の選定、生成AI の開示、価格、公開のボタン |


重心は「作る」から「決める・確かめる・待つ」へ
試作が安くなるほど案が増え、選ぶ・捨てる判断が重くなります。実装が速くなるほど、遊んで確かめる時間と検収が進み具合を決めます。そして、Steam の審査や近日登場の2週間、外注した翻訳や音の納品、コンソールの認証といった外部の待ち時間は、AI を使っても縮みません。
筆者の開発でも同じでした。同じエンジンから派生させたカードゲームは複製から1本目の完成まで2日、ブラウザ版の「霧将棋」は依頼したその日に公開まで進みました。一方、麻雀ゲームを Steam に出す手続きは、前の節で書いたとおり登録と審査の待ちが続き、初回のストアの審査は「日本語の作品名が既定の欄にしか入っていない」「AI 利用の開示が薄い」の2点で差し戻されました。速さを決めたのは、AI の作業ではなく外部の手続きと人の判断です。
筆者の役割分担は、筆者が決める人(裁定・公開のボタン・変更の記録)、Claude Code が設計・実装・テスト・検収・文書、Codex が画像の初稿・翻訳の校正・試し遊び、です。たとえば先のカードゲームでは、Claude が20キャラ分の能力案に「通常のルールからの離れ具合」を○△×で付けた叩き台を出し、筆者が一括で裁定して、×の案はまとめて不採用にしました。
業界の調査の数字
GDC の「State of the Game Industry」2026年版(2026年1月発表・回答2,300人超)では、業務で生成AIツールを使う人は36%、生成AIが業界に悪影響を与えていると考える人は52%(同じ調査の2025年版では30%)でした。用途は調査・ブレスト(81%)、メールなどの日常業務とコード支援(各47%)、プロトタイピング(35%)の順です(GDC の発表)。
日本では、CESA(コンピュータエンターテインメント協会)の「ゲーム産業レポート2026」プレビュー版(2026年9月発刊)の開発者調査(有効回答1,349人・初めての調査)で、業務で生成AIを使う人は85.8%でした(CESA のお知らせ)。2つの調査は対象も聞き方も違うため、数字を並べて「日本の方が多い」「増えた」とは言えません。
AI でも省けない工程
- プレイテスト:面白いか、意図どおりに遊ばれているかは、人が遊んで確かめる
- 品質の基準を決めること:バーティカルスライスで「この品質で行く」と決めるのは人
- 権利の確認と開示:Steam では、プレイヤーが触れる絵・音・文章などを生成AI で作った場合、Content Survey で申告する(コード補完など作業効率化のための利用は対象外。2026年10月時点の公式ドキュメント)
- 審査と待ち時間:手続きの日数は縮まらないので、逆算して並行で進める
- 公開の操作と最終責任:筆者は公開系の操作をすべて自分で行う。それでも、ブラウザ版のゲームのページを予約投稿したときに日付の設定を誤り、8本が約4分間公開されてしまったことがある
落とし穴と依頼文の例
AI 特有の落とし穴は、工程を問わず似ています。動くが仕様と違う、1か所直したら別の所が壊れる、画像の絵柄や体格が少しずつぶれる、テストが壊れたまま「合格」に見える、素材の権利や開示が漏れる、などです。筆者の麻雀ゲームでは、Codex に実際のビルドを遊ばせて指摘6件を受け取り、Claude がすべてをコードで裏取りしてから優先順に直しました。その過程で「実行時のエラーがテストの失敗に数えられていない」問題も見つかっています。
依頼文は、目的(Goal)・材料(Context)・守ること(Constraints)・完了の条件(Done when)を書くと、結果を確かめやすくなります。どの工程でも使える形の例です。
Goal: 2Dアクションの試作に、ジャンプの高さを切り替える設定を足す
Context: 仕様は docs/spec_jump.md。基準はジャンプの高さ3マス
Constraints: 既存のステージデータと素材は変えない
Done when: 2マス・3マス・4マスの3つの設定で起動して遊べ、
自動テストがすべて通り、変更点の一覧が報告されている
書き方は「Claude Code プロンプト設計」と「Codexプロンプト設計」で詳しく解説しています。毎回伝える決まりごとは、指示書ファイル(「CLAUDE.md 完全ガイド」「Codex AGENTS.md完全ガイド」)にまとめておくと便利です。



「AI があれば工程はいらない」は、絶対ダメだよ! 速くなるのは手を動かす所だけで、決めるのと確かめるのは、ずっと人の仕事なんだぁ。
よくある失敗と対処
ひとことで:失敗の多くは、段階を飛ばすこと、基準を決めないこと、並行の流れを後回しにすることから起きます。
| 失敗 | 起きること | 対処 |
|---|---|---|
| プロトタイプを飛ばして本制作に入る | 面白くないことに後で気づき、作り直しが高くつく | 問いを1つに絞った試作で、先に確かめる |
| α・β の到達条件を決めない | 「もうすぐ完成」が続き、締め切りが動く | 到達条件を文章で決め、チームで合意する |
| 作る範囲が後から広がる | いつまでも終わらない | 必須と「あれば良い」を分け、フリーズの時期を決める |
| ストアページと宣伝を発売直前に始める | 審査・近日登場の2週間・ウィッシュリスト集めが間に合わない | 発売日から逆算し、プロダクションの途中から始める |
| 体験版をβの後で考える | Next Fest などの締め切りを逃す | 体験版の範囲を早めに決め、β より前から準備する |
| 権利の確認を最後にまとめる | 素材の差し替えや開示の漏れで審査が止まる | 素材を入れるたびに台帳へ記録する |
| AI で作れる量に合わせて範囲を広げる | 確かめる・直す量が人の手に余る | 1日に確かめられる量に合わせて依頼を区切る |
チェックリスト
ひとことで:工程を進める前に、次の項目で抜けを確かめます。
- [ ] 今いる段階と、次のマイルストーンの到達条件を言える
- [ ] プロトタイプで確かめる問いを1つに絞った
- [ ] α・β・マスターの到達条件を文章にした(会社や契約の基準があればそれに従う)
- [ ] 必須と「あれば良い」の線引きと、フリーズの時期を決めた
- [ ] ストアページ・宣伝・体験版を始める時期を、発売日から逆算した
- [ ] Steam の待ち時間(支払いから発売まで最低21日・審査3〜5営業日・近日登場2週間)を予定に入れた
- [ ] 素材と道具の権利を記録する台帳がある
- [ ] AI に任せる作業と、人が決める・確かめる作業を分けた
- [ ] 発売後の不具合対応と、振り返りの時間を予定に入れた
次に読む記事:目的別の読む順番
ひとことで:目的に合わせて、次の順で読み進めると工程がつながって見えます。
- はじめてゲームを作る人:ゲーム企画の立て方 → ゲームのプロトタイプとは → ゲームエンジンの選び方と開発環境 → グレーボクシングとは → プレイテストのやり方
- Steam で売りたい人:Steamストアページの作り方 → インディーゲームの宣伝 → 体験版(デモ)の作り方 → ゲーム開発の権利と規約 → ゲームの発売(リリース)手順 → 発売後のゲーム運用
- チームで作る人・ゲーム会社の新人:GDDの書き方 → スケジュールとマイルストーン → バーティカルスライスとは → αROMとは → βROMとは → デバッグとQA → マスターアップとは
- 作品の中身を作り込む人:ゲームアセット制作の流れ → BGM・効果音の作り方 → ゲームバランス調整の進め方 → ローカライズ(多言語対応)
- 資金と出し先を考える人:インディーゲームの資金とパブリッシャー → ゲームの移植とマルチプラットフォーム
- AIエージェントで作る人:Claude Codeとは?・Codex入門で道具を知り、本記事の「AIゲーム開発の全体像」を見てから、各記事の「AIゲーム開発での」の節を工程順に読む
- 言葉で迷ったとき:ゲーム開発用語集



ふぁ……これで、企画から発売後までの地図はひと通り……かなぁ。いま自分がどの段階にいるかを確かめたら、気になる工程の記事へ進んでみてねぇ。









