夕宮たいだふぁ……みんな〜、今日は「コマ割り」の話だよぉ。なんとなく割ってたら「読みにくい」って言われちゃったこと、あるよねぇ。順番と大きさと間、3つに分けて整理していこ〜。
コマ割りは、ページを四角に分ける作業に見えますが、実際には「読者がどの順番で読み、どこで止まり、何をいちばん大事なものとして受け取るか」を決める設計です。同じ絵と同じセリフでも、コマの並べ方と大きさを変えるだけで、読みやすさも見せ場の強さも大きく変わります。
この記事は、連載「漫画の画面設計」の1本目です。読む順番、大ゴマの効かせ方、間(テンポ)の作り方を、プロの作家や編集者の話と研究を手がかりに整理し、描く前に順番と大小を決める手順と、人に読んでもらって確かめる方法までまとめます。コマの中のカメラの高さや距離は「漫画のネームの演出」、フキダシの形と置き方は「漫画のフキダシの描き方」で詳しく扱います。
身につける順番は、次の4段階をおすすめします。
- ① 正しく読める:読む順番に迷わない
- ② テンポを作れる:速く進む所と止まる所を分けられる
- ③ 強調できる:見せ場を大ゴマで立てられる
- ④ 崩しても読める:斜めのコマや重なりを使っても迷わせない
斜めのコマや大胆な見開きは④の段階の道具で、①〜③を先に固めておくと崩したときの効き目がはっきりします。紹介するのは守らなければならない決まりではなく、作品ごとに自分のルールを決めるための考え方です。
コマ割りで決めていること
ひとことで:コマ割りは「読む順番」「時間(間)」「重要度」の3つを決める設計です。
読者は自分のペースで読むので、目がどこへ動き、どこで止まるかは紙面の作り方で変わります。コマ割りが受け持つのは、主に次の3つです。
| 決めること | コマ割りで動かすもの | うまくいかないと |
|---|---|---|
| 読む順番 | 段の分け方、コマの位置、フキダシや人物の向き | 読者が「次はどこ?」と迷い、読み戻る |
| 時間(間) | コマの数、1コマの情報量、コマの間の白い帯、同じ構図の繰り返し | 見せ場も会話も同じ速さで流れてしまう |
| 重要度 | コマの大きさの差、置く位置(ページの最後、めくった先) | どこが見せ場なのか伝わらない |
3つは別々ではなく、つながっています。たとえば大ゴマは重要度を上げますが、同時に読者がそこに留まる時間を長くし、置き方によっては読む順番も変えます。そのためコマ割りは、1コマずつではなく、ページ全体や見開き全体で考えます。
『ハイキュー!!』の古舘春一さんは、ページを行ったり来たりさせると読んでいてストレスになり、試合の流れも没入感も消えてしまう、と話しています(少年ジャンプ漫画賞のインタビュー)。読む順番に迷わせないことは、見せ場を作る前の土台です。
読む順番と視線誘導
ひとことで:右綴じの漫画は「上の段から下の段へ、同じ段の中は右から左へ」が基本で、読者はまず段のまとまりをつかんでから順番を決めます。
視線誘導とは、読者の目が迷わずに次の情報へ進むように、コマの配置、フキダシ、人物の向きなどを組み立てることです。
右綴じの基本の順番
日本の漫画の多くは右綴じ(右側が綴じてあり、右から左へ読み進める本)です。読む順番は次のとおりです。
- ページを、横に並んだコマのまとまり(段)に分けて、上の段から下の段へ読む
- 同じ段の中は、右のコマから左のコマへ読む
- 左右にページが並んでいるときは、右のページから左のページへ進む
『双星の陰陽師』の助野嘉昭さんは、右上から左下へ視線が流れるように考えていると話しています。1コマごとに格好いいアングルを描いても、続けて読むと視点があちこちに飛んで読みにくくなることがあるので、1コマより流れを気にした方がいい、とも語っています(ジャンプSQ.の対談インタビュー)。
読者は段のまとまりを先に見る
右から左へ、は万能の決まりではありません。読者はコマを1つずつ数えるより先に、「どのコマとどのコマが同じ段か」というまとまりをつかみ、そのまとまりの中で順番を決めます。
英語圏の研究では、空のコマを並べたページに読む順番を付けてもらう実験で、コマを離す・重ねる・縦長のコマで横の段をふさぐといった配置にすると、決まった読み方(左上から右へ、段ごとに下へ進むZ字の順)から外れる人が増え、格子(グリッド)から外れた配置ほどその傾向が強かったと報告されています(Cohn & Campbell, 2015(英語))。左から右へ読むコミックで調べたもので、日本の漫画の実験ではありませんが、段のまとまりを崩すと読む順番が変わりうる点は、右綴じでも気をつけたい所です。
紙の漫画で迷わせないための基本は、次の4つです。
- 段と段の境目をはっきりさせる(横に並ぶコマの間より、段の間を少し広くする)
- 段をまたぐ縦長のコマは、意図があるときだけ使う
- 下の段へ移る所では、次の段の最初のフキダシを右側に置き、目が右端へ戻れるようにする
- 次に読む候補が2つ、同じ距離・同じ大きさで並ばないようにする(どちらへ進むかで迷う)
縦読みは上から下へ。空白が時間になる
スマホで縦にスクロールして読む縦読みの漫画では、読む順番は上から下の一方向で、横の位置は順番ではなく画面に変化を付けるアクセントとして使えます。
縦読みにはページをめくる区切りがないので、コマとコマの間の縦の空白そのものが「間」になります。同じ会話の中なら短く、ため・驚き・場面の切り替えでは長く取ります。空白の長さは、この記事での練習の目安(業界の決まりではありません)として、ふつうの間がスマホ1画面の高さの1/8〜1/4、ためが1/2〜1画面、大きな切り替えが1画面以上です。CLIP STUDIO PAINT なら、「Webtoon用表示枠」でスマホに表示される範囲の目安を確かめながら調整できます。


視線を運ぶもの
コマの並びだけでなく、コマの中の要素も読者の目を運びます。主なものは次のとおりです。
| 視線を運ぶもの | 使い方の例 |
|---|---|
| フキダシの文字 | 先に読むセリフを右上、後に読むセリフを左下へ置く |
| 顔と視線 | 人物の顔や目線を、次に読むコマの方へ向ける |
| 体の向き・指先・持ち物 | 指さす先、剣の向き、差し出した手で次のコマを示す |
| 動き | ボールの軌道、走る方向、髪や服のなびきを、読む向きにそろえる |
とくに強いと考えられるのは文字です。金沢工業大学の研究グループの発表(電子情報通信学会の研究会、2020年)では、絵やフキダシを変えた漫画で視線を測り、視線の動きを変える要因の中では、フキダシのセリフをはじめとした文章が最も優先度が高い可能性が示唆されています(漫画読解時の誘導規定因と視線の関係性)。研究会での発表で、結果も「可能性」の段階ですが、絵の流れとセリフの順番が逆だと誘導が打ち消し合う、と考える手がかりになります。



ほよ? 絵より文字の方が、目の動きを左右しやすいんだぁ。セリフの順番と絵の流れがケンカしないように、気をつけたいねぇ。
動きの例として、古舘さんは『ハイキュー!!』のページで、勢いよく上がったボールを目で追うとセッターの手が待っていて、そこで勢いが止まってスローモーションのようになる、という目の運ばせ方を説明しています(少年ジャンプ漫画賞のインタビュー)。動きの線は速さだけでなく、読者が止まる場所まで決められます。
崩すときは手がかりを2つ以上
斜めのコマ、コマの重なり、枠のない絵、ぶち抜き(人物などがコマの枠をはみ出し、隣のコマや余白にかかる描き方)、細長い縦のコマは、強い演出になる一方で、読む順番の手がかりを弱めます。使うときは、順番を示す手がかりを1つではなく2つ以上重ねます。
- フキダシの位置+人物の視線
- コマどうしの近さ+動きの向き
- 背景の線の流れ+明暗の差
古舘さんは、珍しい構図を追い求めて読みづらくなったら本末転倒だと話す一方で、崩し方に意味を持たせています。全部を平行な斜めに割る「カッター割り」(本人の命名)はプレーのリズムがスムーズでスピード感を出したいときに、互い違いの斜めは相手のプレーに揺さぶられた場面や余裕のなさを出したいときに使うそうです。無理に奇抜なコマ割りにしなくても、画力の高い人ならシンプルなコマ割りの方が絵が生きるだろう、とも話しています(少年ジャンプ漫画賞のインタビュー)。
読む順番のよくある誤り
| 誤り | なぜ迷うか | 直し方 |
|---|---|---|
| 上の段の左端から、下の段の左端へもつながって見える | 同じ段を続けるか、下の段へ降りるかで迷う | 段の間を広げ、次の段の最初のフキダシを右側へ |
| セリフの順番と人物の並びが逆 | 文字の誘導が絵より強く働きやすい | フキダシをセリフの順に置き、人物の位置を入れ替える |
| 斜めのコマを続けて使う | 斜めが「ふつう」になり、強調にならない | 基準のコマ割りを決め、見せ場でだけ崩す |
大ゴマは「差」でつくる
ひとことで:大ゴマが強く見えるのは大きいからではなく、前後のコマとの大きさや静けさの差があるからです。
大ゴマ(まわりより明らかに大きいコマ)は、読者の目を集め、そこに留まる時間を長くします。ただし、効き目を決めるのは面積そのものではありません。



せっかく大きく描いたのに目立たないの、むずかしいねぇ……。まわりのコマも大きめだと、差がなくなっちゃうんだぁ。
古舘さんは、ネーム(コマ割り・構図・セリフをざっと描いた漫画の設計図)の段階で大きいコマをどこまで大きくできるかを探り、「大きいコマはできるだけ大きく」、そうでないコマは小さくする、と話しています。両方のよいところを取ろうとすると、のっぺりしてしまうからです。まず小ささの限界を決めてから大きさの限界を探り、何度も調整するそうです(少年ジャンプ漫画賞のインタビュー)。
『聲の形』の大今良時さんは、「めくり」(左のページをめくった次の右のページ)に重要なコマを置く演出を説明しています。めくる前の1ページをわざと単調なコマ割りにして読者の気を一瞬緩め、めくった先の大ゴマを効かせる緩急です。前作『マルドゥック・スクランブル』でも、穏やかな会話のページをほぼ均一で小さめのコマで進め、めくった先のページで衝撃的な場面を大ゴマで見せています(週刊少年マガジンの企画「漫画家への花道」のインタビュー。イラスト・マンガ描き方ナビに転載)。
ここから、大ゴマを効かせる手がかりは3つにまとめられます。
- 直前を小さくする:大ゴマの前に、小さめのコマを続ける
- 直前を静かにする:大ゴマの前は、動きやセリフの少ないコマにする
- 直前を規則的にする:大ゴマの前は、同じような大きさのコマを並べる
逆に、どのページにも大ゴマがあると、読者はその大きさに慣れてしまいます。ずっと最大の音量で演奏しているのと同じです。古舘さんも、見開きを派手に見せるコツとして、淡々としたコマ割りから見せ場で大胆なコマ割りに切り替えるメリハリを挙げ、奇抜な画面も続けると見づらいだけだと話しています(少年ジャンプ漫画賞のインタビュー)。



大事な場面を全部大ゴマにするの、ほんとダメだよぉ。いちばん見せたい1つだけを大きくして、ほかは思い切って小さくしようねぇ。


コマの大きさの感覚をつかむには、ページの中でそのコマが占める面積の割合を目安にする方法もあります。次の表は、この記事での練習の目安です(業界の決まりではありません)。
| 1コマの面積(ページに対する割合) | 呼び方 | 向いている内容 |
|---|---|---|
| 約5〜10% | 小コマ | 反応、細部、速い動き、短いセリフ |
| 約10〜20% | ふつうのコマ | 会話、説明、行動 |
| 約20〜35% | 少し強調したコマ | 表情、大事な判断、場所を見せる |
| 約35〜60% | 大ゴマ | 決定的な動き、気持ちのピーク、登場、発見 |
| 約60%以上 | ページを支配するコマ | クライマックス、風景、沈黙、余韻 |
大事なのは数字そのものより、「10%前後のコマが続いたあとに50%のコマが来る」という差です。
大ゴマ1つに主役は1つ
大ゴマの中では、最初に見てほしい主役を1つに決めます。人物の顔、必殺技、建物、手元など何でも構いませんが、同じくらい目立つものがいくつもあると、面積が大きい分だけ探す時間も長くなります。
『週刊少年ジャンプ』編集部に長く在籍した集英社の齊藤さんは、『僕のヒーローアカデミア』の1巻と当時の最新巻を比べ、回想の背景・モノローグ・セリフ・表情が詰まったコマは何に焦点を当てた絵か曖昧になりやすく、情報を1つに絞った最新巻のコマの方が読みやすいと解説しています。そのうえで、「何を見せるためのコマなのか」を意識して描く習慣を勧めています(元週刊少年ジャンプ編集者のブログ)。
大ゴマは情報をたくさん入れてよいという許可ではなく、1つのものを長く見せるための場所と考えると失敗が減ります。説明のセリフが多いときは前のコマへ移し、大ゴマでは結果を見せます。
静かな大ゴマ
大ゴマはアクション専用ではありません。古舘さんは、『ハイキュー!!』の試合の場面で、前のページまでの騒々しさや圧迫感との落差で静けさを出すために、大きな1コマ目をかなり引きの絵にして、空間が目立つようにしたと説明しています(少年ジャンプ漫画賞のインタビュー)。大ゴマの意味を「大声」ではなく「長く見ていてほしい瞬間」と考えると、使える場面が広がります。
描き込みの量も演出の一部です。大今さんは、画面に映る物が多すぎると重たく圧迫感のある絵になり、それがそのままシーンの重さにつながると話しています(同じインタビュー)。静けさを出したい大ゴマなら、描く物を減らします。
見開きとノド、めくり
見開きは、左右の2ページを1つの画面として使う構成です。ページを開いた瞬間に2ページ分が同時に目に入るので、最大の見せ場に向きます。
- 見開きの真ん中(ノド=綴じ目の側)は、本の綴じで見えにくくなります。顔、目、文字、大事な手がかりは置かず、焦点は左右どちらかへ少しずらします
- 電子書籍では、見開きが1ページずつ表示されることもあります。古舘さんも、見開きの一枚絵ならスマホでも横画面で見られていると思っていたものの、親戚の中学生はそうではなかったことから、そういう読み方でもつながるように考えていると話しています(少年ジャンプ漫画賞のインタビュー)。左右それぞれに小さな見どころを置くと、分かれて表示されても意味が残ります
めくりも、ページの構成の大事な道具です。右綴じの本では、左ページの最後(左下のあたり)がめくる直前の場所になります。ここに、誰かが振り向く、扉を開ける、セリフが途中で切れる、といった終わっていない情報を置き、めくった先の右ページで答えを見せると、めくる手が止まりません。
1ページの中は、上が導入、真ん中が変化、下が決定や次への引き、と仮に置くと組み立てやすくなります。必ず3段に割る必要はありませんが、ページ全体の起伏を先に決めてからコマに分けます。
間(テンポ)の設計
ひとことで:漫画には再生時間がないので、コマの数、1コマの情報量、コマの間の白い帯、同じ構図の繰り返しで「読む時間」を作ります。
漫画の「間」は、読者が次の情報にたどり着くまでに感じる時間です。テンポは速ければよいものではありません。速く進む所があるから止まる所が効き、止まる所があるから次の速い所がより速く感じられます。
コマの数と1コマの情報量
同じ1ページでも、3コマなら1つ1つの出来事が大きく、8〜10コマなら時間を細かく刻めます。ただし、コマが多いほど速いとは限りません。1つの動作を細かく割れば速く感じますが、目、手、時計、窓などを細かく繰り返せば、待っている時間を長く感じさせることもできます。決め手は、1コマが受け持つ情報の量と、コマからコマへ状況がどれだけ変わるかです。
会話については齊藤さんのブログでも、掛け合いを1コマで何往復もさせると読みづらくなりがちなこと、セリフのないコマや背景だけのコマは増えてもあまり負担にならないことが紹介されています。
1ページのコマ数は、この記事での練習の目安(業界の決まりではありません)として、会話のページは5〜7コマ、ふつうのアクションは3〜6コマ、静かな場面や余韻は2〜5コマから試すと、違いを比べやすくなります。
ガターの幅は、場面の切れ目
ガターは、コマとコマの間の白い帯です。何もない場所ではなく、前のコマと次のコマがどれくらい続いているかを示す境目として働きます。
- 同じ瞬間の続いた動き:狭く
- 段の切れ目:少し広く
- 場面・場所・時間が飛ぶとき:広く
幅はミリより、ふつうの幅との比で考えると原稿の大きさが変わっても使えます。この記事での練習の目安(業界の決まりではありません)は、ふつうのガターを1として、同じ動きの連続が0.7〜1、段の切れ目が1.5〜2、場面転換が2〜4です。横のつながりと段の切れ目を同じ幅にしないことは、読む順番の手がかりにもなります。


同じ構図の繰り返しで時間を伸ばす
同じ構図のコマを2〜4コマ続け、表情や手だけを少しずつ変えると、実際の出来事は一瞬でも、読者が感じる時間を伸ばせます。告白の直前、電話が鳴る前、攻撃が当たったかどうか分からない一瞬などに向いています。逆に、コマごとにアングルを変えると新しい情報が増え、止まった感じは弱まります。



同じ構図を並べるだけで、時間がのびて見えるんだぁ。ちょっとした手品みたいでしょ?
場面ごとの間の作り方
| 場面 | 間の作り方 | 例 |
|---|---|---|
| アクション | 誰がどこからどこへ動いたかを保つ。速い所は細長いコマや小さいコマを続け、決着は大きく安定した形で止める | 右から攻めてきた敵を、理由なく次のコマで左から攻めさせない |
| 会話 | 同じ大きさ・同じ距離のコマを「ふだん」として続け、気持ちが動く一拍だけ寄りや大きいコマにする | ずっと中くらいの距離で会話していた二人を、告白の一言だけ寄りにする |
| 静かな場面 | 引きの絵、大ゴマ、同じ構図の繰り返し、広い余白。情報は足さずに減らす | 返事が来ないスマホを見つめる時間を、セリフのない4コマで見せる |
| ホラー | 同じ構図を繰り返してためを作り、いちばん怖いものはめくった先で見せる | 振り返る直前の背中を3コマ続け、めくった先で正体を見せる |
| ギャグ | ボケとツッコミの間に、無言の小さいコマを1つ挟む | ボケのあと、真顔の相手を無言で1コマ置いてからツッコむ |
アクションでは、カメラの位置や向きをほぼ固定し、できるだけ拡大・縮小で演出するとメリハリがつきつつ読者も混乱しない、という助野さんの考え方も参考になります(ジャンプSQ.の対談インタビュー)。カメラの高さや距離の選び方は「漫画のネームの演出」で扱います。
迷わせないための作り方
ひとことで:絵を描く前に、出来事・重要度・順番・フキダシの順で骨組みを決め、崩すのは最後にします。
描きながら考えると、絵の出来に引っぱられて順番や大小がぶれがちです。古舘さんも、ネームに起こす前に、どこからどこまでを何ページにするかを文章の段階で区切り、そこである程度コマ割りや構図を考えていると話しています(少年ジャンプ漫画賞のインタビュー)。
- ① ビート(場面の中の1つ1つの出来事)を短い文で書き出す。例:部屋に入る→誰もいない→物音がする→振り返る→何かがいる。5つあるから5コマ、ではなく、どれをまとめ、どれを細かく割るかでテンポを決める
- ② ビートの重要度を小・中・大の3段に分ける。「何かがいる」を最大にしたいなら、そこに至るビートは小〜中に抑える
- ③ 四角と番号だけでコマの順番を作る。右上から一本の線でたどり、線が交差したり大きく戻ったりしたら直す
- ④ フキダシを、セリフの順に、絵より先に置く
- ⑤ 人物の顔・視線・体の向き・持ち物を、フキダシの流れに合わせて置く
- ⑥ 最後に、斜め・重なり・枠なし・ぶち抜き・見開きで崩す。崩す前の版と比べて、意図が強くなったか、順番が分かりにくくなっていないかを確かめる
④は、助野さんの話にも通じます。駆け出しの頃は、絵を描いて余ったスペースにフキダシを押し込んでいて、持ち込みで、絵は上手いが漫画が下手だと言われたそうです。インタビューでは、セリフまで書いた脚本から1話分を一気にコマ割りし、次に全ページのフキダシとセリフ、最後に絵を入れる順で作っていると話しています(ジャンプSQ.の対談インタビュー)。
デジタルで描くなら、コマの枠、フキダシと文字、絵を別々のレイヤーに分けておきます。絵を隠して「枠+文字だけ」で読み、順番が分からなければ、絵や効果線でごまかさず、枠とフキダシの配置を直します。縮小したキャンバスだけで判断せず、紙なら実際の大きさ、縦読みならスマホ1画面の大きさで読むことも大切です。原稿のサイズや解像度は、投稿先・掲載先の規定に従ってください。
人に読んでもらって確かめる
「読みやすい?」と漠然と聞くより、次の4つに分けて聞くと、どこを直せばよいかが分かります。
| 聞くこと | 問題があったら直す所 |
|---|---|
| 最初にどこを見た? | コマの大小、文字、顔、明暗 |
| 次にどこへ行った? | コマの配置、フキダシ、人物の視線 |
| どこで一度戻った? | 段の分け方、縦長のコマ、次に読む候補のぶつかり |
| どこがいちばん長く感じた? | コマの数、面積、文字の量、余白 |
「絵が下手だから読みにくい」と考える前に、どの要素を直せばよいかを切り分けられます。
練習課題
- 練習1:無言の6コマのページを作り、番号や矢印を入れずに3〜5人に読んでもらって、読んだ順を番号で書いてもらいます。全員の順番がそろわなければ、絵を描き直す前に、段の分け方、目を引く所の位置、人物の向き、コマの間の距離の順に直します
- 練習2:「主人公が敵を見つける」までの同じ8つのビートを、8コマ均等、小さいコマ7つ+大ゴマ1つ、見開き、の3通りでネームにします。セリフは変えずに人に読んでもらい、「どの瞬間がいちばん大事に見えたか」が意図と合うかを比べます。絵のうまさではなく、大きさだけで意味が変わることを確かめる練習です
コマ割りジェネレーターで試す
ひとことで:条件を決めてコマ割りの案を束で並べ、読む順番と大小の差を見比べる練習に使えます。
このサイトで公開している「コマ割りジェネレーター」は、コマ割りの案を乱数でまとめて作り、気に入った割りを SVG・PNG で書き出せるブラウザ用のツールです。無料・登録不要で、PC とスマホのブラウザで使えます。作ったコマ割りや設定がどこかへ送信されることはありません。


この記事の考え方は、次のように試せます。
- 読む順番を確かめる:カードに付いた番号は、読む順番(日本式の設定では右から左・上から下)を表しています。「読み順番号」のチェックを外すと番号が消えるので、束の中から何枚か選んで自分が自然に読む順を決めてから、番号を戻して答え合わせをします。合わない案は、段の区切りがあいまいだったり、次に読む候補が2つ並んでいたりする、迷いやすい配置の見本になります
- 大小の差を比べる:「大ゴマ率」のスライダーを変えて束を作り直し、大ゴマが際立って見える案と、どのコマも同じくらいに見える案を見比べます。際立って見える案では、大ゴマの前後にどんな大きさのコマが並んでいるかを確かめます
- 場面に合わせて選ぶ:プリセット(整然・会話/標準/アクション/見せゴマ・扉)から描きたい場面に近いものを選び、判型(原稿のB5・A5、SNS用の縦4:5、正方形)、段数、枚数と、斜めコマ・断ち切り(コマを紙の端まで広げること)・コマ内分割のスライダーで条件を整えます。一度に12〜48枚の案が並び、ボタンを押すたびに新しい束に入れ替わります
- 惜しい案を詰める:拡大表示の「これをベースに変異」で、骨組みを残したまま比率や傾きを変えた案を並べられます。変異度を低くすると、コマの比率が少し変わるだけで印象がどう変わるかを比べられます
選んだ割りは SVG か縦2400pxの PNG で保存でき、CLIP STUDIO PAINT に下敷きとして持ち込めます。書き出したファイルに入るのは枠線だけで、番号は入りません。持ち込み方は説明ページにまとめています。



ボタンを押すたびに案が並ぶから、順番当てクイズみたいに練習できるんだぁ。気楽にいこ〜。
よくある失敗と直し方
ひとことで:多くは「順番の候補がぶつかる」「大きさに差がない」「区切りが見えない」のどれかから起きます。
| 失敗 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 読む順番が人によって違う | 段の区切りがあいまい、次に読む候補が2つ並んでいる | 段の間を広げ、次の段の最初のフキダシを右側に置く |
| 大ゴマなのに目立たない | 前後のコマも大きめで差がない、主役が多い | 直前のコマを小さく静かにし、大ゴマの主役を1つに絞る |
| 見せ場が多すぎて、どれも弱い | 大事な場面を全部大ゴマにしている | いちばん大事な1つだけを最大にし、ほかは縮める |
| 大ゴマで文字ばかり読ませている | 説明のセリフを大ゴマに詰めている | セリフを前のコマへ移し、大ゴマでは結果を見せる |
| 場面が変わったのに気づかれない | 場面転換も続いた動きも、ガターの幅が同じ | 場面転換のガターを広くする |
| 会話が単調になる | 話す人の顔の往復だけが続く | 聞き手の反応、手元、二人が入る引きの絵を混ぜる |
| ページをめくりたくならない | ページの最後で出来事が終わっている | 問いや途中の動きを左ページの最後に、答えをめくった先に置く |
| 見開きの見せ場が欠ける | 顔や文字がノドにかかっている | 焦点を左右どちらかへずらす |
チェックリスト
ひとことで:ネームを切ったら確かめる11の項目です。最後の「3秒テスト」は、人に頼めばすぐにできます。
- [ ] このページでいちばん見せたいものを、一文で言える
- [ ] 番号を振らなくても、最初に読むコマに迷わない
- [ ] 下の段へ移る位置が1つに決まる
- [ ] フキダシだけを追っても、セリフの順に読める
- [ ] 人物の顔・視線・動きが、ページの外ではなく次に読むコマへ向いている
- [ ] どのコマも「このコマは◯◯を見せる」と言える
- [ ] 大ゴマの前後に、大きさや静けさの差がある
- [ ] 場面転換と続いた動きで、ガターの幅を変えている
- [ ] 左ページの最後に、めくりたくなる問いや動きがある
- [ ] 見開きのノドに、顔や文字を置いていない
- [ ] 3秒テスト:ページを3秒だけ見せて閉じ、「最初に何が目に入ったか」を聞くと、大ゴマにしたものと一致する
3秒テストで答えが一致しないときは、大きさだけでなく、文字・顔・明暗のどれかがぶつかっている可能性があります。文字は目を強く引くので、大ゴマのすぐ横に大きな文字を置いていないかも確かめます。



ふぁ……順番、大きさの差、間。この3つを描く前に決めておけば、読みやすさはだいぶ変わる……かなぁ。まずは四角と番号だけのネームから試してみてねぇ。
次に読む記事
連載「漫画の画面設計」の5本です。
- 漫画のコマ割りの基本とコツ|読む順番・大ゴマ・間(テンポ)の設計(この記事)
- 漫画のフキダシの描き方|形の意味と、読む順番を崩さない置き方
- 漫画のネームの演出|カメラの高さ・距離と「基準と落差」で見せ場を作る
- キャラのポーズの描き方|感情から体の向きを決めて、見せ場を作る
- 効果線とトーンの使い方|線の種類が伝える感情と、使いすぎない基準
ツールの一覧は「自作ツール」にまとめています。





