夕宮たいだふぁ……みんな〜、今日はネームの「カメラ」の話だよぉ。見せ場って、つい派手にしたくなるよねぇ。強く見えたり見えなかったりする理由を、一緒にほどいていこ〜。
漫画のネーム(コマ割り・構図・セリフを決める、下描き前の設計図)で「ここを見せ場にしたい」と思ったとき、大ゴマ(ほかより大きく取ったコマ)にしたり、煽り(下から見上げる構図)にしたりしても、思ったほど強く見えないことがあります。見せ場の強さは、そのコマ1つの派手さより、直前まで読者が「普通」だと思っていた画面との違いで大きく変わるからです。
この記事では、コマの中のカメラを「高さ(俯瞰・目線・煽り)」と「距離(引き・中景・寄り)」の3段階ずつで整理し、見せ場の手前に「基準」を作って、見せ場で一軸だけ変える組み立て方を解説します。結論を先に書くと、見せ場を強くしたいなら、見せ場を派手にする前に、その手前を普通にします。
読み終えると、見せ場が立たない理由を言葉で説明でき、打ち合わせで言われた「もっと迫力を」を、どのコマをどう直すかに分けられるようになります。連載「漫画の画面設計」の3本目です。コマの大小の付け方は「漫画のコマ割りの基本」、体の向きとポーズは「キャラのポーズの描き方」で扱います。
「基準と落差」とは
ひとことで:読者が「この場面ではこれが普通」と感じる画面(基準)を先に作り、見せ場でそこから外す(落差)考え方です。
「基準と落差」は、この記事で使う考え方の名前です。漫画の研究や心理学に、この名前で知られた理論があるわけではありません。コマ割りの考え方、映画のカメラについての研究、読者の注意の向き方を、ネームを作るための道具としてまとめたものです。
- 基準:直前の数コマを読むうちに、読者が「この場面はこの撮り方で進む」と無意識に予想できる状態
- 落差:その基準から、意図して外すこと
基準は、いつも目の高さ(目線)・上半身くらいの距離(中景)とは限りません。ホラーなら遠くから見下ろす画面が続くことが基準になり、アクションなら見上げる激しい画面が、ギャグなら同じ構図の繰り返しが基準になります。
見せ場の強さは、次の3つのかけ算だと考えると整理しやすくなります。計算に使う式ではなく、考え方の目安です。
見せ場の強さ ≒ 意味の強さ × 基準からの変化の量 × 変化のタイミング
| 要素 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 意味の強さ | その瞬間が物語の中でどれだけ大事か | 告白、正体が分かる、決着がつく |
| 基準からの変化の量 | 直前の画面とどれだけ違うか | 上半身の会話が続いたあとの、顔の寄り |
| 変化のタイミング | どこで変えるか | 告白の一言の瞬間、ページをめくった先 |
かけ算なので、どれか1つが小さいと、ほかを大きくしても強くなりません。意味の薄い場面で大きく変えても空振りになり、大事な場面でも直前と同じ撮り方なら差は生まれません。
たとえば、ずっと目線×中景で静かに話していた二人を、告白の一言だけ顔の寄りにする。巨大な怪物を最初から見上げ続けるのではなく、目線の引きで状況を見せてから、一気に煽りの寄りに切り替える。どちらも効いているのは「寄り」「煽り」そのものではなく、それまでの画面との関係です。
コマの大きさについても、同じ見方があります。漫画の技術書『マンガの原理』(大場渉・森薫・入江亜季、KADOKAWA、2025年)の目次には「コマの大きさより大小差」という項目があります。この記事では、この「差で見る」見方を、コマの中のカメラ(高さと距離)に広げて使います。



見せ場を煽りの大ゴマにしたのに、なんだか弱い……むずかしいねぇ。でも手前のコマもずっと煽りだったら、差がなくて当たり前なのかもぉ。
カメラの高さと距離を3段階で考える
ひとことで:高さ(俯瞰・目線・煽り)と距離(引き・中景・寄り)を3段階ずつに分け、9通りの組み合わせを「候補の地図」として使います。
漫画に本物のカメラはありませんが、読者が「どこから、どれくらいの大きさで」人物を見ているかを仮想のカメラとして考えると、ネームの段階で構図を比べやすくなります。カメラにはほかにも向きやレンズ、傾きがありますが、この記事では高さと距離の2つにしぼり、それぞれ3段階に分けます。撮影の現場の細かい分類ではなく、ネームを速く比べるための作業用の分け方です。
高さ:俯瞰・目線・煽り
| 高さ | どこから見るか | 得意なこと | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 俯瞰(ふかん) | 人物より高い所から見下ろす | 位置関係・包囲・孤立・床の手がかり・群衆を一度に見せる | 弱く見せる専用ではない。見下ろす側の支配や、作戦を練る視点にもなる |
| 目線 | 人物の目の高さ | 会話・日常・説明。基準にしやすい | 角度の主張が弱いぶん、表情・しぐさ・セリフが読まれる |
| 煽り(あおり) | 人物より低い所から見上げる | 威圧・巨大さ・英雄らしさ・恐怖・決意 | 敵なら圧、味方なら立ち上がる強さ、日常の人物なら「何かおかしい」という違和感になる |
距離:引き・中景・寄り
| 距離 | 画面に入るもの | 役割と使い方の例 |
|---|---|---|
| 引き | 全身・背景・複数の人物・進む方向 | 誰がどこにいるかを確定する。アクションなら位置関係のリセット、ホラーなら安全そうな部屋に異物を置く、感動の場面なら人物を風景に溶かす余韻 |
| 中景 | 身ぶりと表情が両方読める(上半身くらい) | 会話の基準。「普通」を作りやすい |
| 寄り | 顔・目・手・口・小物(目だけ、手だけまで寄ると極端な寄り) | 特定の情報を大きく取り出し、読者の注意をそこへ集める |
9マスは「意味の辞典」ではなく「候補の地図」
高さと距離を組み合わせると9通りになります。各マスには、その組み合わせが得意な場面を短く書きました。


| 高さ\距離 | 引き | 中景 | 寄り |
|---|---|---|---|
| 俯瞰 | 空間・包囲・孤立 | 関係性と弱さ | もろさ・監視・不穏 |
| 目線 | 状況の説明 | 会話・日常の基準 | 内面・情報・反応 |
| 煽り | 巨大さ・威容 | 対峙・優位・決意 | 圧迫・畏れ・執念 |
この表は「このマスならこの意味」と決める辞典ではありません。最初に考える候補を並べた地図です。同じマスでも、前後の流れと場面の意味によって、伝わるものが変わります。
角度と寄りの効き方は、文脈で変わる
映画の理論では、高い位置から撮ると人物が弱く、低い位置から撮ると強く見える、と言われてきました。ところが、俳優が画面に向かって話す短い映像で、カメラの角度だけを変えて見せた実験では、いちばん信頼できると評価されたのは目の高さで撮った場合でした。見上げる角度と見下ろす角度では信頼が下がり、魅力や性格の評価は角度では変わりませんでした。著者たちは、カメラの角度が人物の受け取られ方にどう働くかには文脈が大きく関わる、とまとめています(Baranowski & Hecht, 2018)。
距離についても、手描きのアニメーション映画の場面を使った別の実験があります。悲しい表情の人物を寄り(クローズアップ)で見せると、引き(ロングショット)で見せたときより、見た人がその人物の気持ちについて自分から言葉にすることが増えました。一方、無表情の顔を寄りで見せても、同じ効果は見られませんでした(Rooney & Bálint, 2018。136人の実験)。著者たちは、顔を大きく映したこと自体ではなく、顔が運ぶ感情の情報が効いていると考えています。
どちらも映像を使った実験で、漫画そのものを調べたものではありません。それでも、ネームに使える考え方は引き出せます。
- 高さは、意味を自動で決める記号ではなく、前後の文脈を強める装置として使う
- 寄りは、感情を生む道具ではなく、そこにある情報(表情・目・手・小物)へ注意を集める道具として使う。だから寄る前に「このコマで何を読ませるか」を用意する
基準を作り、一軸だけ変える
ひとことで:同じ撮り方を数コマ続けて基準を作り、見せ場ではまず高さか距離の一方だけを変え、直後に受け止めるコマを置きます。
基準を作る
まず「この場面で読者に普通と思わせる画面」を決め、同じ系統の高さ・距離・コマの大きさを続けます。会話なら、目線×中景を3コマ続けるだけで、読者は「この会話はこの距離で進む」と予想しやすくなります。続けるコマ数は、この記事での練習の目安として2〜4コマです(業界の決まりではありません。心理学で決まった数でもありません)。
まず一軸だけ変える
見せ場では、高さか距離のどちらか一方だけを変えてみます。もっと強くしたいときだけ、二軸を変えます。
| 段階 | コマの並び | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 基準 | 目線×中景 → 目線×中景 → 目線×中景 | 普通の会話 |
| 一軸だけ変える | 目線×中景 → 目線×中景 → 目線×寄り | 告白・気づき・嘘をつく瞬間 |
| 二軸を変える | 目線×中景 → 目線×中景 → 煽り×寄り | 決意・宣言など、さらに強くしたい瞬間 |
高さと距離を同時に大きく変え、そこへ大ゴマ・集中線・大声・形を崩したコマまで重ねると、強くなることもありますが、何が大事なのかがぼやけやすくなります。見せ場で全部を盛るより、いちばん効く変化を1つか2つ選ぶほうが、狙いどおりに伝わります(集中線の使いどころは「効果線とトーンの使い方」)。
落差のあとに「回収」を置く
落差を作ったら、読者がその変化を受け止めるコマを置きます。この記事では、これを回収と呼びます。形は主に3つです。
| 回収の形 | 並び | 例 |
|---|---|---|
| 反応 | 基準 → 落差 → 反応 | 告白の寄りのあと、相手の目や握った手を1コマ |
| 余韻 | 基準 → 落差 → 無言の余韻 | 大技のあと、壊れた空間を引きで見せて結果を読ませる |
| 新しい基準 | 基準 → 落差 → 新しい基準 | 怪物が姿を見せたあと、ここからは煽りの画面で進める |
告白の寄りの直後にすぐ別の事件を起こすより、相手の目・手・沈黙を1コマ置くほうが、落差の意味がはっきりします。





ほえ〜、直すのは見せ場のコマじゃなくて、その手前なんだぁ。普通のコマって、見せ場のための大事な準備だったんだねぇ。
落差を作れるのはカメラだけではない
| 変えるもの | 基準の例 | 落差の例 |
|---|---|---|
| 高さ | 目線 | 急な俯瞰・煽り |
| 距離 | 中景 | 極端な寄り・大きな引き |
| コマの大きさ | ほぼ均等 | 大ゴマ・ごく小さなコマ |
| 密度 | 人物+背景+セリフ | セリフのない空白 |
| 反復 | 同じ構図 | 1か所だけ構図を変える |
| 速度 | 細かいコマ割り | 1コマで時間を止める |
| 情報 | 顔を見せる | 顔を隠す・初めて見せる |
| 視点 | 主人公の側 | 相手の側・俯瞰・主観に切り替える |
どれを変えても落差になりますが、同時に変えるのは1つか2つまでにすると、何が変わったのかが伝わりやすくなります。
変化の量を記号で点検する
見せ場の変化が足りているかを確かめるために、高さと距離に仮の数字を振る方法もあります。心理学の尺度ではなく、ネームを見直すための点検用の記号です。
- 高さ:俯瞰=+1、目線=0、煽り=−1
- 距離:引き=0、中景=1、寄り=2
前のコマからの変化の量は、高さの差と距離の差を足したものです。目線×中景から煽り×寄りなら、高さで1、距離で1、合わせて2です。ページのどのコマも0〜1ずつ動いていて、見せ場の変化も同じ0〜1なら、見せ場は浮き上がりません。
作品に学ぶ3つの型
ひとことで:何を固定して何を変えるかで、見せ場の作り方は3つの型に分けられます。
作品の分析記事を手がかりに、3つの型を見ていきます。作品の画像は載せず、構造だけを文章で説明します。コマの構成に触れるので、軽いネタバレを含みます。


型1:動きの軸を保ったまま、カメラが回る
漫画の制作スタジオ、フーモアコミックスタジオの解説記事は、鳥山明『DRAGON BALL』の10巻と22巻の場面を例に、コマの並びを、カメラが二人のまわりをぐるっと回る動きとして読み解いています(フーモアコミックスタジオ、2022年)。
二人の左右がコマの間で入れ替わり、イマジナリーライン(二人を結ぶ見えない線。カメラを一度その片側に置いたら、続くコマも同じ側から撮るのが基本とされます)を実際に越えている所でも、カメラが二人を中心に回り込んでいると一続きで分かれば、読者は違和感なく読める、という説明です。猛スピードで進む人物を固定のカメラでとらえたあと、同じ速さで追うカメラに切り替え、急ぐ表情を見せながらスピード感を保つ例も挙げられています。
この型の基準は、カメラの位置ではなく、誰がどこにいて、どちらへ動いているかという位置関係と動きの軸です。カメラを動かしても、動いた理由が感じられれば、読者は迷いません。反対に、理由なく「煽り→俯瞰→顔の寄り→背中→真横」と切り替えると、落差ではなく位置の情報のリセットになりやすくなります。アクションの前に「Aが左、Bが右、攻撃は右から左」のような基準を決めておくと、カメラを動かしても迷わせにくくなります。



ぁぅ……毎コマちがう角度にすると、誰がどこにいるのか分からなくなっちゃうんだよねぇ。カメラを動かすときは、どこからどこへ回ったのか言えるようにしておこうねぇ。
型2:強い反復を長く続け、例外を効かせる
藤本タツキ『さよなら絵梨』について、Real Sound に載った島田一志の考察記事は、1ページに横長のコマを4つ縦に並べる形が基本で、そこに時おり大ゴマが意図的に入ると分析しています(Real Sound、2022年)。
スマートフォンを手に持って撮っている、という前提に合わせた形です。記事は、手持ちの画面が基本で、長いセリフの場面などでは固定カメラ風の画面が比較的多く使われ、主人公が動揺した時やスピード感を出したい時には手ブレの画面をあえて入れる、とも指摘しています。単調なコマ割りが続く「縛り」の中で、作者の編集のセンスが問われる、という見方です。
落差を作るのに、毎ページ変化させる必要はありません。同じ形を長く続けるほど、そこから外れた1コマが事件になります。日常や恋愛の会話劇なら、同じ二人の中景を5コマ続け、6コマ目だけ握った手の寄りにすれば、説明のセリフがなくても「何かが変わった」と伝えられます。
型3:距離だけを変えて、情報を開く
アメリカで出版されたコミック『Watchmen(ウォッチメン)』(アラン・ムーア原作、デイブ・ギボンズ作画)の第1話の1ページ目は、表紙と同じ血のついたスマイルマークのバッジを写したコマから始まり、数コマかけてカメラが引いていきます。最後はページの最下段をまるごと使った横長の1コマで、人が落ちた高さの全体が見えます(The A.V. Club、2013年)。
同じ現場から目を離さずに、カメラを引いていくという一つの動きだけで、「これは何だ?」から「ここで何が起きたのか」まで読者を連れていく構成です。自分のネームでこの型を使うなら、高さと向きをそろえたまま、距離だけを段階的に変えると読みやすくなります。ミステリーなら「証拠の寄り→手→人物→部屋→建物」と、引くほど答えが増える並びに。ホラーなら逆に「引き→中景→寄り」と近づきながら、見たくないものを確かにしていく並びにできます。
| 型 | 固定するもの(基準) | 変えるもの(落差) | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 動きの軸を保ってカメラを回す | 位置関係と動きの軸 | カメラの位置 | アクション・対決 |
| 反復から1つだけ外す | コマの形と撮り方 | 1コマの大きさや撮り方 | 会話劇・日常・恋愛 |
| 距離だけを変えて開く | 写す対象・高さ・向き | 距離(寄り→引き、引き→寄り) | ミステリー・ホラー |
「基準と落差」は特定のジャンルの技ではなく、何を固定し、何を変えるかを決める考え方です。
感情ごとの組み立てと「逆落差」
ひとことで:狙う感情ごとに基準・落差・回収の組み合わせを選び、ときには「盛らない」ことで見せ場を作ります。
| 狙う感情 | 基準 | 落差 | 回収 |
|---|---|---|---|
| 緊張 | 静かな中景・位置関係を固定 | 少しずつ寄る・俯瞰を混ぜる | 無言・極端な寄り・物越しの画面 |
| 驚き | 同じ構図をくり返す | ページをめくった先で、急に引く・寄る | 反応のコマ |
| 恐怖 | 安定した空間の説明 | コマの端に異物・急な距離の変化 | あえて見せ切らずに引く |
| 感動 | 中景中心の会話 | 表情・手・小物へ一度だけ寄る | 大きな引き+余白 |
| 決意 | 目線中心 | 煽り+寄り | 引きで行動を始める |
| 緩和 | 寄り・狭い画面で張りつめる | 引きで空間を開く | 日常の動作に戻す |
| ギャグ | 同じ構図・同じテンポ | 1コマだけ極端な俯瞰・引き | すぐ基準に戻す |
- 緊張:急に派手にするより、「引き→中景→寄り→極端な寄り」と距離が少しずつ縮むほうが効くことがあります。逃げ場が狭まっていく感覚です。最後の寄りには、汗・目の揺れ・握りしめた手など、読ませる情報を置きます。
- 驚き:変化の前の静けさが大事です。同じ構図を続けてから、ページをめくった先(めくり)に落差を置きます。めくった先の画面は、読者が前もって見られないからです。
- 感動:大ゴマ=顔の寄りと決めつけません。寄りで感情を確かにしてから、大きな引きで「二人が同じ場所にいる」「一人が去った」といった関係そのものを見せる2段構えが扱いやすい形です。
- 緩和・笑い:張りつめた強い画面を基準にしてから、急に普通に戻します。「煽りの寄り→煽りの寄り→極端な寄り→目線の大きな引き」と並べ、最後の引きで、実はくだらない状況だったと分かる形です。落差は、弱くする向きにも働きます。
盛らないことで強くする「逆落差」
普通なら感情を盛り上げる場面で、あえて寄らない、煽らない、大ゴマにしない、という選び方もあります。この記事では「逆落差」と呼びます。
- 死別の場面を、極端な引きで描く
- 怒りを、無表情のまま動かない中景で描く
- 怪物の登場を、日常と同じ目線の画面で描く
どれも、読者がそこまでに抱いた「ここは盛り上がるはず」という予想から外れることで、重さや違和感が生まれます。逆落差が効くのも、手前に基準があるからです。





ふふん、いちばん泣ける場面で、あえて寄らないの。ちょっと大人っぽいでしょ? 手前でちゃんと基準を作っておくのがコツなんだよぉ。
落差は、派手にする技術ではありません。読者の予想を作り、意味のある瞬間だけ、その予想を変える技術です。
ネームに書き込むメモと手順
ひとことで:各コマの横に「高さ・距離・基準か落差か」を書き、感情の目的から順に組み立てます。
各コマの横に書く3つ
ネームを切るとき、各コマの横に最低限、高さ・距離・役割(基準か落差か回収か)を書いておきます。略号は自分が分かれば何でもかまいません。告白の場面なら、たとえば次のようになります。
| コマ | 高さ | 距離 | 役割 | ねらい |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 目線 | 中景 | 基準 | 普通の会話 |
| 2 | 目線 | 中景 | 基準 | — |
| 3 | 目線 | 中景 | 基準 | — |
| 4 | 目線 | 寄り | 落差 | 本音を言う |
| 5 | 目線 | 極端な寄り | 落差 | 相手の目 |
| 6 | 目線 | 引き | 回収 | 二人の沈黙 |
これだけで、絵の上手い下手と切り離して、演出だけを点検できます。
組み立ての手順
- ① 場面の感情の目的を一文で決める(「不安にさせる」「笑わせる」など)
- ② 見せ場を1つ決める
- ③ 見せ場の直前の基準を決め、高さ・距離・コマの大きさを書き込む
- ④ 基準を数コマ続ける
- ⑤ 見せ場で一軸だけ変え、落差が一目で読めるか確かめる(弱ければ、もう一軸を足す)
- ⑥ 直後に回収(反応・余韻・新しい基準)を置く
- ⑦ ページ全体を縮小して見直し、強い画面の使いすぎを削る
「もっと迫力を」を分解する
打ち合わせで「このコマ、もっと迫力を」と言われたら、見せ場のコマを描き込む前に、基準と落差の言葉で分けてみます。
- 「直前の3コマが全部寄りなので、ここで寄っても差が出ない」
- 「前のコマを中景に戻して、この1コマだけ煽り×寄りにする」
- 「見せ場のあとに、引きの反応のコマを足す」
どのコマとの差が足りないのかを言葉にすると、直す場所が見つかり、相手とも同じものを見て話せます。
ネームガチャで試す
ひとことで:ネームガチャの「見せ場」と「比べる」で、基準と落差を手を動かして確かめられます。
ネームガチャは、コマ割りに人物のアタリ(下描き用の人形)を自動で置く、ブラウザ用のツールです。無料・登録不要で、2〜3人の会話の場面を、コマの形と「演出のトーン」に合わせて撮り分け、ガチャで何案も並べます。ツールの本体を開いて、次の順に試せます。
- ① 「演出のトーン」を「自動(ふだんの会話)」にして、「ガチャを回す」を押します。ほとんどのコマが日常の撮り方になり、山場だけが少し揺れます。基準が続くページの見本になります。
- ② 「見せ場」を「強く」と「静かに」で切り替えて、同じページを比べます。「強く」は大きく寄ったり角度を付けたりして山場を目立たせ、「静かに」は山場を客観の引き・目の高さ・ふつうのレンズで、傾けずに撮ります。逆落差の練習になります。
- ③ ページのコマを押し、「比べる」の「高さ」を押すと、そのコマの高さだけを8種類に変えた小さな絵が、点数付きで並びます。一軸だけ変えると画面がどう変わるかを、目で確かめられます。押すと、その撮り方でコマが固定されます。
- ④ 基準にしたいコマを「固定」して、ほかのコマだけを引き直します。


ガチャの点の付け方にも、この記事と同じ考え方が入っています。山場以外のコマは、ページの基準(よく使う高さ・レンズ・傾き)にそろうほど点が上がり、山場だけは基準から離れるほど点が上がります。ページのコマを押すと、「解説ウィンドウ」でそのコマのショット・高さ・レンズなどを変えられるので、前の節のメモと照らし合わせながら直せます。書き出した PNG やクリスタ用の PSD は、下描きの下敷きにできます。いまも機能を足している開発中のツールなので、画面や結果が変わることがあります。
よくある失敗と直し方
ひとことで:多くは、見せ場と比べる相手(基準)がないことから起きます。
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 全部を見せ場にする | 大ゴマ・煽り・顔の寄り・集中線が続き、比べる相手が消える | 見せ場以外のコマを中景や引きに戻す |
| 「煽り=強い、俯瞰=弱い」と機械的に使う | 場面と逆の意味が出る | 場面の意味から高さを選ぶ |
| 感情がないのに寄る | 大きいだけで、何も読めないコマになる | 寄る前に、読ませる情報(目の揺れ・唇・手・傷・小物・汗・視線)を用意する |
| 毎コマ、カメラを変える | 位置関係を見失い、どれが例外か分からない | 前のコマからカメラがどう動いたか、説明できるか確かめる |
| 基準が短すぎる | どれが見せ場か分からない | 同じ撮り方を数コマ続けてから変える |
高さの意味は、場面しだいで逆になります。敵を俯瞰で描いても、無数の兵を従える配置なら強く見えます。主人公を煽りで描いても、崖の下から必死に助けを求める場面なら、弱さが際立ちます。
基準の長さも比べてみます。「中景→寄り→引き→煽り→俯瞰→寄り」では、どれが例外なのか分かりません。「中景→中景→中景→中景→寄り」なら、寄りそのものが出来事になります。
周りを弱めて強くする
見せ場が弱いとき、見せ場をさらに強くするより、周りを弱めるほうが早く効きます。
| 状態 | コマの並び |
|---|---|
| 直す前 | 寄り → 寄り → 煽り×寄り → 寄り → 大ゴマで寄り |
| 直した後 | 中景 → 中景 → 引き → 煽り×寄り(見せ場)→ 引き |
チェックリスト
ひとことで:ネームを見直すときに確かめる8つの項目です。
| 確かめること | OKの目安 | あやしいサイン |
|---|---|---|
| 場面の目的 | 「不安にさせる」など一文で言える | 「かっこよくする」だけ |
| 基準 | 同じ系統の画面が数コマ続いている | 全部のコマが違う角度 |
| 見せ場 | ページや一連の場面の中心が1つに決まっている | 全部のコマが大声・寄り |
| 高さ | 変える理由を言える | なんとなく煽る |
| 距離 | 寄る・引くで見せたい情報がある | 顔を描きたいから寄るだけ |
| 落差 | ページを縮小しても違いが分かる | 単体では派手だが、周りと同じ |
| 回収 | 反応・余韻・新しい基準のどれかがある | 見せ場の直後に別の話へ移る |
| 空間 | 誰がどこにいるか追える | 視点の切り替えで位置を見失う |



ふぁ……見せ場を強くしたいなら、まず手前を普通にする。これだけ覚えて帰ってくれたらうれしいなぁ。次のネームで、各コマの横に高さと距離をメモしてみてねぇ。
次に読む記事
連載「漫画の画面設計」の5本です。
- 漫画のコマ割りの基本とコツ|読む順番・大ゴマ・間(テンポ)の設計
- 漫画のフキダシの描き方|形の意味と、読む順番を崩さない置き方
- 漫画のネームの演出|カメラの高さ・距離と「基準と落差」で見せ場を作る(この記事)
- キャラのポーズの描き方|感情から体の向きを決めて、見せ場を作る
- 効果線とトーンの使い方|線の種類が伝える感情と、使いすぎない基準
ツールの一覧は「自作ツール」にまとめています。





