夕宮たいだふぁ……みんな〜、今日は「フキダシ」の話だよぉ。セリフを囲む線……って思われがちだけど、じつは読む順番まで決めてるんだぁ。一緒に見ていこ〜。
フキダシは、セリフを囲む線であると同時に、コマの中で読者の目を運ぶ道筋です。どんな形で囲むかで声の大きさや種類が伝わり、どこに置くかで、誰の声か、どの順番で読むかが決まります。コマ割りがページの中の順番を決めるなら、フキダシはコマの中の順番を決める「第二のコマ割り」です。
この記事は、連載「漫画の画面設計」の2本目です。日本の縦書きの漫画を前提に、フキダシの形・線・しっぽ(話し手へ向けて伸ばす、とがった部分。テイルとも呼びます)が伝える意味と、読む順番を崩さない置き方を解説します。読み終えると、叫び・小声・電話・心の声を形で描き分けて作品の中のルールにでき、しっぽが交差した「たすきがけ」を人物の配置から直せるようになります。ページ全体の読む順番の基本は「漫画のコマ割りの基本」で解説しています。
フキダシが担う4つの役割
ひとことで:フキダシは「声の種類」「誰の声か」「次に見る場所」「絵と文字の面積」の4つを同時に決める部品です。
小学館新人コミック大賞のサイトで公開されている講座は、フキダシをセリフのための専用の枠として説明しています(まんが家養成講座「フキダシとセリフ」)。この枠は、描き方しだいで次の4つの仕事をします。
| 役割 | 伝えること | 主に決めるもの |
|---|---|---|
| 声の種類 | 普通の会話か、叫びか、小声か、心の声か、電話の声か | 形と線 |
| 誰の声か | どの人物が話しているか | 置く位置としっぽ |
| 次に見る場所 | どのフキダシを先に読み、次にどこへ目を移すか | 置く位置と並べ方 |
| 絵と文字の面積 | コマの中で、絵と文字がそれぞれどれだけの広さを取るか | 大きさ・改行・分け方 |
フキダシを、視線を運ぶ道具として扱う技法書もあります。漫画家の森薫・入江亜季と、『ハルタ』『青騎士』の創刊編集長の大場渉による『マンガの原理』(KADOKAWA、2025年)は、フキダシとセリフの章に、フキダシの線と位置や、フキダシを使った視線誘導の項目を設けています。
迷ったら、この順番で決める
4つの役割がぶつかったときは、次の順番で優先します。凝った形より、順番と話し手が分かることが先です。
| 順位 | 確かめること | 守れていないと起きること |
|---|---|---|
| 1 | 読む順番が一目で分かるか | 読者が前のフキダシへ戻る・読み飛ばす |
| 2 | 誰の声かがすぐ分かるか | しっぽを目でたどらないと話し手が分からない |
| 3 | 文字の量とフキダシの大きさが釣り合うか | 文字が詰まる・絵を必要以上に隠す |
| 4 | 形と線が声に合っているか | 普通の会話が叫びに見える・弱い声が強く見える |
| 5 | 絵の流れとぶつからないか | 動きの真ん中を長いセリフがふさぐ |
| 6 | 見た目が整っているか | きれいでも読みにくい |
たとえばアクションの場面で、拳が飛ぶ軌道の真ん中に長い説明のセリフを置くと、絵の動きと文字を読む動きがぶつかります。こういうときは、セリフを短く分けて動きの手前と後ろに置くか、次のコマへ回します。
形は「声の種類」を伝える
ひとことで:形は声の大きさや状態を伝える記号です。ただし意味は、作品の中で決めて繰り返し使うことで伝わります。
小学館の講座では、普通の会話用のフキダシのほかに、叫ぶとき、心の中で思っているとき、電話やスピーカーの声のときに、それぞれ別の形を使う例を示しています。日本の漫画でよく見かける形と、意味の目安をまとめます。
| 形 | よく使われる意味(作品によって違う) | 向いている場面 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 楕円・丸 | 普通の声 | 日常の会話、説明、返事 | 作品の基準の形にする。特別な意味を持たせない |
| 角丸・四角 | 冷静な声、整理された情報 | ナレーション、説明、機械の表示 | 「しっぽがあればセリフ、なければナレーション」のように使い分けを決める |
| 雲(もこもこ) | やわらかい声、心の声 | 心の声、回想、夢 | 時代や作品で意味が分かれやすい |
| ギザギザ・爆発 | 大きな声、強い感情 | 叫び、驚き、命令、衝撃 | 使いすぎると基準の声が大きくなり、本当の叫びが目立たなくなる |
| 波・震え | 弱った声、震える声 | けが、恐怖、泣き声、動揺 | 感情が動く場面すべてに使うと効かなくなる |
| 粗くゆがんだ形 | 人ではないものの声 | 怪物、変身後の声 | 「怖いから粗く」ではなく、特定の話し手の声として決める |
| 規則的なトゲ・角ばった形(電子音) | 機械を通った声 | 電話、テレビ、無線、ロボット | 二重線で描く作品もある。叫びの不規則なギザギザと見分けがつくようにする |
| 二重の輪郭 | 一段強い声、特別な声 | 強調、人ではない存在の声 | 叫びや電子音と意味がかぶらないように整理する |
| 枠なし(文字だけ) | 空間に溶ける声 | 心の中の独り言、余韻 | 普通のセリフより優先度が低いことを、位置と大きさで示す |
小学館の講座は、雲形を普通のセリフ用の形の1つとして挙げたうえで、最近はあまり見かけなくなったと書いています。同じ形でも、時代によって使われ方が変わる例です。
海外のコミックにも、似た約束事があります。コミックの文字入れ(レタリング)を手がける Blambot の解説「Comic Book Grammar & Tradition」(英語)は、叫びにはギザギザの「バースト」、体の苦しさには波打つ輪郭、怪物の声には粗い輪郭、強調には二重の輪郭、無線・テレビ・電話などの声には規則的なトゲの輪郭を使うと紹介しています。心の声のフキダシは近年はやらなくなり、心の独白はナレーション用の枠(キャプション)で書くほうが好まれるとも書かれています。書き手自身、これは確立した伝統に最近の流行と自分の意見を混ぜたものだと断っています。


縦長・横長は「声」ではなく「収まり」の形
ギザギザや波は声の状態を表す記号ですが、縦長か横長かは、多くの場合、文字の量と絵の空きに合わせた結果です。縦長だから小声、横長だから冷静、とは決めつけません。縦書きのセリフは縦長に、短い横書きのセリフは横長に収まりやすい、というだけのことがほとんどです。縦書きのセリフを横書きの言語に訳すと、同じ内容でも収まりのよい縦横の比率が大きく変わります。縦長・横長が文字の収まりで決まっている、分かりやすい例です。
形を収まりに合わせる工夫として、『名探偵コナン』の作者・青山剛昌さんは、文字に合わせてフキダシの輪郭をでこぼこさせている理由を「なるべく絵を描きたいから」と説明しています(少年サンデー編集部のイベントで配られた資料を紹介したマンナビの記事、2023年)。整った楕円にそろえることより、絵を描ける面積を残すことを優先した形です。
形の意味は、作品の中で決める



形にはちゃんと意味があるんだけど、形だけで意味が決まるわけじゃないんだぁ。作品の中で「この声はこの形」って決めて、ずっと使うのが大事なんだよぉ。
形と意味の対応は、物理の法則のような決まりではありません。雲形の例のように時代で変わり、国や出版社、作品によっても違います。大事なのは、自分の作品の中で「この声はこの形」というルールを決めて、繰り返し使うことです。読者は読み進めるうちにそのルールを覚え、形を見ただけで声を聞き分けるようになります。
- 普通の会話の形(基準)を1つ決める
- 作品に出てくる特別な声(叫び・小声・心の声・電話など)ごとに、形を1つずつ決める
- 決めた形は途中で変えない(1つの声に1つの形)
- 人物に専用の形を持たせるなら、その人物が話すときは毎回使う
たとえば学園ホラーなら、普通の声は楕円、心の声は雲、スマホの通話は電子音、怪異の声は枠なしの文字、のように決めておきます。ルールがあると、あえて崩す演出も効きます。ギャグの場面で「プリン食べたの誰?」のようなささいな一言だけを爆発の形にすると、ふだんのルールとの落差が笑いになります。ルールのない作品で同じことをしても、ただの描き間違いに見えてしまいます。
線としっぽ(テイル)
ひとことで:線は声の質を、しっぽは話し手と次に見る場所を示します。しっぽは短く、交差させず、顔を切らないのが基本です。
線は「声の質」を描く
線の太さや種類も、声の情報を運びます。
| 線 | よく使われる意味 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 標準の細い線 | 普通の声 | 作品の基準の線にする。コマごとに太さを変えない |
| 太い線 | 強い声、大事な一言 | すべてを太くすると強弱が消える |
| 破線 | ささやき、内緒話 | 日本の漫画では、作品ごとに意味が違う |
| 点線 | 弱い声、消え入りそうな声、遠い声 | 破線ほど意味が決まっていない |
| 波打つ線 | 体や心の不安定 | けが、泣き声、震え。感情が動く場面すべてには使わない |
| 手描きの揺れ | 生々しさ、緊張 | 雑に描いた揺れと、狙った揺れを区別する |
Blambot の解説では、ささやきは破線のフキダシで表すのが伝統で、最近は文字を薄い色にする、大きなフキダシに小さな文字を入れる、といった方法も使われると紹介しています。日本の漫画でも、小声の表し方は点線、細い線、小さな文字など、作品によって分かれます。たとえば恋愛ものの告白の場面で、返事の「……うん」を点線の小さなフキダシにすると決めたら、その作品の小声はずっと点線で描きます。
しっぽの種類と使いどころ
しっぽ(テイル)は、フキダシから話している人へ向けて伸ばす、とがった部分です。誰の声かを示すと同時に、しっぽの向きに沿って読者の目が動きます。
| しっぽ | 使う場面 | 目の動き |
|---|---|---|
| 短い直線 | 近くの人物が話す(普通の会話) | 話し手へ弱く自然に導く |
| ゆるい曲線 | 話し手との間に顔や大事な絵がある | 絵を避けて話し手へ回り込む |
| 長いしっぽ | 遠くの人物が話す | 強い斜めの線になり、構図を左右する。必要なときだけ |
| コマ枠で終わる | コマの外にいる人物の声 | コマの外へ意識を向ける |
| 稲妻の形 | 電話・無線・機械の声 | 声が出ている機械へ導く |
| 小さな丸の連なり | 心の声 | 口ではなく頭へ導く |
| 複数のしっぽ | 何人かが同時に同じことを言う | 目が複数の方向へ分かれる。本当に同時のときだけ |
Blambot の解説では、しっぽは先を延ばすと話し手の口に届く向きにすること、コマの外の声はしっぽをコマ枠に当てること、無線や電話の声は稲妻形のしっぽを声の出どころへ向けること、心の声のしっぽは小さな丸を連ねて口ではなく頭へ向けることが、伝統的な描き方として紹介されています。ホラーで閉まった扉の向こうから声がするなら、しっぽを扉へ向ければ、声の出どころが一目で分かります。


しっぽは「短く・交差させず・顔を切らない」
しっぽで大事なのは、先を口に正確に刺すことより、話し手がすぐ分かることです。
- 短く:フキダシを話し手に近づければ、しっぽは短くて済みます。長いしっぽが必要になったら、まず置く場所を見直します
- 交差させない:2本のしっぽが X 字に交わると、話し手を探す目と、順番を追う目がぶつかります(次の章の「たすきがけ」)
- 顔を切らない:しっぽや輪郭が、顔・目・手や、話の手がかりになる小物を横切らないように、しっぽを曲げるか、フキダシを動かします
話しているキャラがコマにいないとき、青山剛昌さんは分かりやすいように、フキダシの中に顔を描いていると話しています(同じマンナビの記事)。コマの外の声でも、しっぽをコマ枠に当てる、顔を添えるなど、誰の声かが分かる手がかりを残します。
読む順番を崩さない置き方
ひとことで:話す順番どおりに右上から左下へ並べ、先に話す人物を右に置くなど、人物の位置も順番に合わせます。
4つの向きを分けて考える
日本の縦書きの漫画の「右から左へ読む」には、4つの違う向きが含まれています。
| 単位 | 読む向き |
|---|---|
| ページの中のコマ | 右上から左下へ(段ごとに) |
| コマの中のフキダシ | 右上寄りから左下寄りへ |
| フキダシの中の行 | 右の行から左の行へ |
| 行の中の文字 | 上から下へ |
小学館の講座も、フキダシはコマと同じように右から左へ読むと説明しています。横書きのセリフでは行と文字の向きだけが変わり、行は上から下へ、文字は左から右へ進みます。向きが混ざること自体は間違いではありませんが、横書きのフキダシをコマの左右に散らすと、目の往復が増えます。ページの中のコマの順番は「漫画のコマ割りの基本」で解説しています。
良い配置とは、正しい順番を推理できる配置ではなく、ほかの順番を考える必要がない配置です。ネーム(コマ割り・構図・セリフを決める下描き)でフキダシに①②③と番号を振り、その順に1本のなめらかな線で結べるかを確かめます。線が途中で右上へ戻ったり、ほかのフキダシを飛び越えたりするなら、置き方を見直します。
空いている所に入れない



絵を描き終わってから、空いてる所にフキダシをぎゅっと押しこむの……ほんと、ダメだよぉ。話す順番が、絵の都合で決まっちゃうんだぁ。
絵を描き終えてから空いている所にフキダシを入れると、話す順番より絵の空きが優先されます。フキダシはネームの段階で、人物と一緒に置きます。人物の位置もフキダシの位置も、話す順番から決めるのが基本です。
話す順番と人物の位置をそろえる
小学館の講座は、話している人物の近くにフキダシを置くことを守るべき基本としています。そのうえで、先に話した人物のセリフを受けて別の人物が答えるコマで、フキダシが交差する「たすきがけ」になり、とても読みにくくなる例を挙げ、そういうときは人物の配置を変えて直すよう勧めています。たすきがけが起きるのは、人物の左右が話す順番と逆になっているときです。
たとえば教室で、先に話す A が左、後から答える B が右にいるコマを考えます。右から読むので、先に読ませたい A のフキダシは右上に置きたいのに、A 本人は左にいます。すると、A のしっぽは右上から左へ、B のしっぽは左から右へ伸びて交差します。A を右、B を左に入れ替えれば、それぞれのフキダシが話し手の近くに来て、しっぽは短く、交差しなくなります。





ほえ〜、フキダシをいじるより、人を入れ替えちゃう方が早いんだねぇ。しっぽが短くなって、すっきりするよぉ。
フキダシだけで直そうとすると、長いしっぽや無理な位置が増えます。直すべきなのは人物の配置であることが多いので、ネームの段階から「先に話す人を右に」を意識します。前後のコマとのつながりで人物の左右を変えられないときは、コマを分けて一人ずつ話させる、後から話す人のフキダシをはっきり下に置いて段差を付ける、などの方法で、迷わない順番を作ります。
改行は文節で、長いセリフは分ける
小学館の講座は、セリフを文節で区切って改行すると格段に読みやすくなること、長いセリフは1つのフキダシに詰めず、2つに分けたほうが見やすいことを示しています。
| 書き方 | 例(/は改行の位置) |
|---|---|
| 区切りの悪い改行 | 明日の朝ま/でに原稿を送ら/ないと怒られる |
| 文節で区切った改行 | 明日の朝までに/原稿を/送らないと/怒られる |
| 1つに詰めたセリフ | 昨日、駅で十年ぶりに先輩に会ってさ、そのまま喫茶店で三時間も話しちゃった |
| 2つに分けたセリフ | ①昨日、駅で/十年ぶりに/先輩に会ってさ ②そのまま/喫茶店で/三時間も/話しちゃった |
2つに分けると、読みやすくなるだけでなく、「再会した」と「そのあと」の間に、話し手が一息つく間が生まれます。青山剛昌さんも、1つのセリフを2つのフキダシに分け、後半を下にずらすと間が取れると説明しています(同じ記事)。フキダシを分けることは、句読点の代わりではなく、時間の編集です。
文字と輪郭のすき間を取る
文字が輪郭に触れそうなほど詰まっていると、それだけで窮屈に見えます。この記事での練習の目安(業界の決まりではありません)として、文字のかたまりから輪郭まで、1文字分くらいの空きを取るところから調整してみてください。縦書きでは、行の頭や終わりの句読点、ルビ(ふりがな)が輪郭に近づきやすいので、そこを重点的に見ます。
すき間はフキダシ同士の間にも必要です。青山剛昌さんは、フキダシ同士の小さな隙間をつぶすと、どちらのセリフか迷ううえ、文字ばかりで読みにくくなると話しています(同じ記事)。
コマ枠に「少しだけ触れる」を避ける
フキダシとコマ枠の関係は、次の4つに分けて考えます。
| 状態 | 判断 |
|---|---|
| 枠の完全に内側にある | 安全 |
| 枠にはっきり接している | 狙ってそうしているなら使える |
| 枠をはっきり越えている | 演出として使える |
| 枠にほんの少しだけ、偶然触れている | いちばん避けたい |
Blambot の解説では、フキダシや描き文字が、ほかの文字や絵の線に重ならずにかすかに触れる状態を「タンジェント」と呼び、何としても避けるべきものとしています。触れるなら、はっきり重ねるか、はっきり離します。
紙に印刷する原稿では、断ち切り(紙の端まで絵を描くコマ)などでフキダシやセリフが原稿用紙の内枠(内側に引かれた枠線)からはみ出すと、印刷で文字が切れることがあります。小学館の講座は、なるべく内枠の中に収めるよう勧めています。細かい寸法は、投稿先や入稿先の規定に従ってください。
置き方の型
ひとことで:一人の続きのセリフ、二人の会話、三人以上の会話は、どれも「話す順番」から位置を決めます。
一人が二段階で話す
- ①を右上寄り、②を左下寄りに置き、人物をはさんで右上から左下へ目が流れるようにする
- 位置は内容の強さではなく、話す順番で決める(強い一言を後に言うなら、強い一言が左下)
- 2つのフキダシを少し重ねるか、細い線でつなぐと、同じ人物の続きのセリフだと伝わりやすい。海外のコミックでも、一人が2つの考えを続けて言うときに、フキダシをつなぐ慣習がある(Blambot)
二人の会話
- 先に話す人物を右、後から話す人物を左に置くと、しっぽが短く、交差しにくい
- やり取りが何往復も続くなら、高さの段差をはっきり付けて、①A→②B→③Aとジグザグに下がっていくように置く。それでも窮屈なら、コマを分ける
- 「……うん」のような一言の返事は小さなフキダシにして、直前のフキダシの近くに添える
三人以上の会話
人物とフキダシを同じ大きさ・同じ高さ・同じ間隔で並べると、どれから読めばよいか分からなくなります。まず「発話の階層」を作ります。
| 階層 | 例(放課後に3人で予定を決める場面) | 置き方 |
|---|---|---|
| ① 中心になる発話 | 「明日、海に行かない?」 | 右上・大きめ |
| ② 応答 | 「行く!」 | ①の左下・中くらい |
| ③ 補足 | 「……日焼け止め持ってく」 | ②の左下・小さめ |
近さ・上下の差・大きさで順番を見せます。人数の多い場面ほど、全員を同じ扱いにしないことが大切です。
フキダシジェネレーターで試す
ひとことで:形・しっぽ・改行・置き方を、描く前に何通りも試して比べられます。
フキダシジェネレーターは、16種類の形からフキダシを作り、PNG・SVG で保存できるブラウザ用のツールです。無料・登録不要で、PC でもスマホでも使えます。使い方はフキダシジェネレーターの紹介ページにまとめています。この記事の考え方は、次のように試せます。
- 声のルールを決める:同じセリフを楕円・トゲ・波・電子音などに入れ替えて、声の聞こえ方を比べます。文字以外の設定は「お気に入り」に名前を付けて取っておけるので、「主人公の叫び」「電話の声」のように、作品のルールとして使い回せます
- しっぽを選ぶ:しっぽは「曲がり」「三角」「泡(思考)」「稲妻」「線だけ」の5種類で、向き・長さ・太さ・曲がりを変えられます。顔を避ける曲線、電話の稲妻、心の声の泡を試せます
- 改行と分け方を確かめる:「1行の文字数」を決めると自動で改行され、フキダシの大きさは文字に合わせて変わります。文字のまわりの空きは「余白」で調整できます。文字を空行で区切って「連結フキダシ」をオンにすると、セリフごとのフキダシが数珠つなぎになり、一人が二段階で話す型を作れます
- 置き方を確かめる:「ページ(ネーム)」で、コマ割りの画像や白紙を下敷きにして、フキダシをいくつも置けます。台本を1行に1つずつ書いて「ページに並べる(ネーム)」を押すと、右上から左へ、段ごとに下へと、漫画の読む順番でフキダシが並びます。( )は思考、【 】はナレーション、『 』は電子音、「!!」「!?」のあるセリフはトゲ、と記号から形も選ばれます
並べたあとは、人物の位置と照らし合わせて、しっぽが交差していないかを確かめます。コマ割りジェネレーターで書き出したコマ割りの PNG は、そのまま下敷きに読み込めます。フキダシは文字なしでも書き出せるので、文字はふだん使っているペイントソフトで入れる、という使い方もできます。
よくある失敗と直し方
ひとことで:多くの失敗は「絵を先に描いて空きに入れる」ことと、「形のルールがない」ことから起きます。
| 失敗 | 読みにくくなる理由 | 直し方 |
|---|---|---|
| フキダシを空いている所に入れる | 話す順番より絵の空きが優先される | ネームの段階で、人物と一緒にフキダシを置く |
| しっぽが X 字に交差する | 話し手を探す目と、順番を追う目がぶつかる | 人物の位置を入れ替える |
| 後に読むフキダシが右上にある | 目が逆戻りする | 話す順番どおりに、右上から左下へ置き直す |
| しっぽが長い | 余計な斜めの線が目立つ | フキダシを話し手に近づける |
| しっぽが顔や手を横切る | 大事な絵が切れる | しっぽを曲げる・フキダシを動かす |
| 文字を小さくして無理に収める | 読みにくく、詰まって見える | セリフを削る・改行を変える・2つに分ける |
| 全部のフキダシが同じ大きさ | 話のリズムと優先順位が消える | 一息・間・強調に合わせて、大きさと分け方を変える |
| 特別な形を毎回変える | 読者が形の意味を覚えられない | 1つの声に1つの形を決める |
| 文字が輪郭に触れている | 窮屈に見える | 文字を減らすか、輪郭を広げる |
| コマ枠に少しだけ触れている | 偶然の接触が目ざわりになる | はっきり離すか、はっきり越える |
仕上げのチェック
ひとことで:最後に「5秒テスト」で順番と声を確かめ、どのフキダシも役目を一文で言えるかを見ます。
5秒テスト
ページを見て、次の5つに考え込まずに答えられるかを確かめます。描いた本人は順番を知っているので、できれば人に見せて答えてもらいます。
- ① 最初に読むフキダシはどれか
- ② 次はどれか
- ③ 誰のセリフか
- ④ 声は普通か、叫びか、小声か、機械を通した声か
- ⑤ 最後のフキダシから、次のコマへ自然に移れるか
1つでも考え込むなら、読者の読む力の問題ではなく、順番の判断を読者に任せてしまっている合図です。



ふふん、5秒で答えられたら合格だよぉ。友だちに「最初にどれを読んだ?」って聞くだけでも、けっこう分かるんだぁ。
一文で言えるか
フキダシごとに、次の一文で役目を言えるかを確かめます。
「[誰]が[どんな声]で話し、読者を[次のどこ]へ送るフキダシ」
たとえば「主人公が小声で答え、読者を左下の相手の表情へ送るフキダシ」と言えれば、形・線・位置・しっぽはほぼ自然に決まります。「空いていたから右上に置いた」としか言えないフキダシは、置き直す候補です。
ネームを見直すときは、黙読と音読を1回ずつするのもおすすめです。青山剛昌さんは、自分でセリフを読むと耳に入るので必要かどうかを見分けやすく、面白いギャグでも多いと感じたら削ることがあると話しています(同じ記事)。
ほかにも、次の点を見ておきます。
- [ ] スマホやサムネイルの大きさに縮めても、読む順番が分かる
- [ ] 白黒にしても、声の種類を形と線で見分けられる(色だけに頼らない)
- [ ] 特別な形と線の意味が、作品の最初から最後まで同じ
- [ ] 文字が輪郭に詰まっていない。フキダシ同士にすき間がある
- [ ] コマ枠に偶然少しだけ触れているフキダシがない



ふぁ……形は声、置き方は順番。これでフキダシは、だいぶ迷わなくなる……かなぁ。次は、コマの中のカメラの話も見てみてねぇ。
次に読む記事
連載「漫画の画面設計」の5本です。
- 漫画のコマ割りの基本とコツ|読む順番・大ゴマ・間(テンポ)の設計
- 漫画のフキダシの描き方|形の意味と、読む順番を崩さない置き方(この記事)
- 漫画のネームの演出|カメラの高さ・距離と「基準と落差」で見せ場を作る
- キャラのポーズの描き方|感情から体の向きを決めて、見せ場を作る
- 効果線とトーンの使い方|線の種類が伝える感情と、使いすぎない基準
ツールの一覧は「自作ツール」にまとめています。





