夕宮たいだふぁ……みんな〜、連載の最後は効果線とトーンの話だよぉ。貼れば貼るほど、画面が重たくなっちゃうことってあるよねぇ。何を残して見せるかで選ぶコツを、一緒に見ていこ〜。
効果線とトーンは、ネーム(コマ割りとセリフの設計図)とペン入れのあとに入れる仕上げの道具です。集中線を1つ足すだけで視線が集まり、トーンを1枚貼るだけで服の色や夜の暗さが伝わります。手軽なぶん、足すほど画面が重くなり、いちばん見せたい表情が埋もれることもあります。
選ぶ基準は「どの素材を使うか」ではなく、「このコマで何を見せ、読者にどう感じてほしいか」です。この記事では白黒の漫画を中心に、効果線とトーンの役割、強さの段階のつけ方、感情との組み合わせ方、使いすぎを判断する6つの基準を、例とあわせてまとめます。連載「漫画の画面設計」の5本目で、コマ割り・フキダシ・カメラ・ポーズを決めたあとの仕上げにあたります。
効果線・トーン・ベタの役割の違い
ひとことで:効果線は線で動きや注目を示す演出、トーンは濃淡と模様で違いを示す素材、ベタと白は画面の強弱の土台です。
効果線とトーンは、分ける軸が違います。効果線は、動きを示す・注目を集めるといった、線が果たす役割で呼ぶ名前です。トーン(スクリーントーン)は、網点(小さな点を規則正しく並べた模様)や柄で濃淡を表す素材の名前です。アナログでは、網点などが印刷された、裏に糊の付いたフィルムを切って原稿に貼ります。
2つは重なることもあります。集中線の柄のトーンを貼ればそれは効果線として働き、デジタルでは集中線や流線の素材を置いてから、余分な線を消して使う方法も紹介されています(MediBang Paint「初心者マンガ講座13 集中線・効果線や描き文字を描こう」)。
| 要素 | 主な役割 | 入れるときに考えること |
|---|---|---|
| 効果線 | 動き・注目・衝撃・心理状態を線で示す | 何が動くのか。どこを見せたいのか。どのくらい強めるのか |
| トーン | 色の違い・陰影・質感・心理的な背景を、濃淡と模様で示す | 何のための灰色・模様なのか。主役との明暗の差は足りているか |
| ベタと白 | 黒い面と白い面で、画面の強弱を組み立てる | どこを黒で締めて、どこを白く抜くのか |
ベタ(黒く塗りつぶした面)と白(何も描かない紙の白)はトーンではありませんが、トーンの量は、白・灰色・黒の3つの面積の関係で見ると整理できます。問うのは「トーンを貼れる場所が残っているか」ではなく、「この灰色を足すと、何が読み取りやすくなるか」です。
代表的な効果線と、伝えられること
ひとことで:線ごとに基本の働きがあり、どの感情に見えるかは、表情やポーズ、前後のコマとの組み合わせで決まります。
基本の働きとして、集中線は線の中心にあるものに視線を集めて目立たせ、流線のような効果線は画面や絵に動きを持たせる、と説明されます(先ほどの MediBang Paint の講座)。小学館の新人コミック賞の講座では、集中線・スピード線・ベタフラッシュなどを「効果背景」と呼び、場所や時間・季節を説明する風景の背景と違って、主に登場人物の心理状態などを表すもの、としています(CLIP STUDIO PAINT 描き方ナビ「まんがの背景を描こう!(後編)」)。
| 種類 | 基本の働き | 感情・演出への使い方の例 |
|---|---|---|
| 集中線 | 放射状の線で、中心にあるものを目立たせる | 驚き、発見、決意、喜びの高まり、大事な物を見せる |
| 流線(スピード線) | 一方向にそろえた線で、移動や勢いを示す | 走る、飛んでくる、急に近づく、切迫感 |
| 曲線の軌跡 | 円弧などで、回る動きや振り抜く動きを示す | 剣や腕の振り、振り向き、髪や服のなびき |
| 短い動作線 | 体や物のすぐ近くに短く入れ、小さな変化を示す | 手の震え、びくっとする反応、軽く跳ねる、細かく揺れる |
| 縦線 | 上から垂れるような線で、気持ちの沈みや重さを示す | 落ち込み、気まずさ、重いショック、不穏さ |
| ベタフラッシュ | 集中線の外側を黒く塗り、白い中心を強く引き立てる | 大きな衝撃、恐怖、強烈な気づき、切迫した見せ場 |
| カケアミ | 短い平行線の束を重ねて、濃淡や質感を作る | 陰影、ざらつき、背景の重さ、ざわつく気持ち |
| 不規則な線・揺れる線 | 整っていない線そのものを演出に使う | ためらい、混乱、不安定さ、力の抜けた状態 |


この表は「この線を使えば必ずこの感情になる」という対応表ではなく、基本の働きと、そこから組み立てられる例です。同じ集中線でも、目を見開いた顔なら驚き、口を結んで前を見る顔なら決意、満面の笑みなら喜びの高まりに見えます。縦線が雨や落ちていく物を表すこともあるように、線の向きだけでは、気持ちの表現か物の動きかは決まりません。何に付いている線で、どんな場面なのかと合わせて読まれます。
先ほどの小学館の講座では、ベタフラッシュは集中線の最初の線をふだんより太く入れて線どうしをつなげ、外側を黒く塗りつぶして作り、キャラクターが何かを感じたときのような重要な場面で使う、と解説されています。カケアミも「不安を表す線」ではなく、夜空や髪の影、壁のざらつきにも使える、濃淡と質感を作る技法です。



「集中線=驚き」「縦線=ガーン」って、セットで覚えてたよぉ……。同じ線でも、表情しだいで決意にも喜びにもなるんだねぇ。むずかしいねぇ。
集中線は「コマの中心」ではなく「注目の中心」へ
集中線を置くときは、最初に「何を強調するか」を1つ決めます。人物の全体とは限らず、見開いた目、握りしめた手、床に落ちた鍵が対象になることもあります。中心の位置や線の長さ・太さ・密度は調整でき、引きたい線の形によっては、中心がコマの外に出てもかまいません(先ほどの MediBang Paint の講座)。
- 顔の反応を見せたいなら、顔のまわりに読み取りやすい空間を残す
- 物の発見を見せたいなら、線の集まる先をその物に合わせる
- 目や口より線の模様が目立つなら、強調の目的が逆になっている。線を増やすより先に、内側の線を短くするか、顔に近い所を消してみる
ただし、人物に線を重ねてはいけないわけではなく、強い移動感を出すために、あえて人物の上に線をかける描き方もあります。分かれ目は、狙って重ねたのか、結果として読みにくくなったのかです。
流線は、ポーズや軌跡の代わりにしない
アクションを分かりやすくしたいときは、流線を増やす前に、「何が、どこからどこへ動いたのか」が絵だけで読み取れるかを確かめます。順番は、ポーズと位置関係 → 動きの軌跡 → 必要な流線、です(体の向きの決め方は「キャラのポーズの描き方」)。
腕は右へ振っているのに、腕のまわりの線が別の向きを示していると、情報がぶつかります。一方で、背景の流れと剣の円弧の向きが違っても、それぞれが何を表すかがはっきりしていれば共存できます。すべての線を平行にそろえることが目的ではありません。
動線(動きの向きを示す線)については、コマ漫画の絵で、ふつうの動線・動線なし・逆向きの動線を比べた実験があります。見るのにかかった時間は、ふつうの絵がいちばん短く、逆向きの絵がいちばん長く、動線のない絵はその間でした。漫画を読む経験で結果が変わったことから、動線は読者が覚えて使う「漫画の語彙」の一部だと考察されています(Neil Cohn・Stephen Maher、2015年。論文の紹介ページ(英語))。実験室での結果で、すべての作品に当てはまる法則ではありませんが、線の向きを動きにそろえる理由の1つになります。
太さ・密度・長さ・余白で強さを決める
ひとことで:同じ種類の線でも、太さ・密度・長さ・余白を変えれば、強さを段階づけられます。
先ほどの小学館の講座でも、スピード線は線の強弱・方向・粗密で、物が動く方向や速さを表せると解説されています。比べるときは、要素を1つずつ変えると違いがつかめます。
| 調整する要素 | 比べるときに見る所 |
|---|---|
| 太さ | 主役の輪郭より線が強くなっていないか。繊細な反応と激しい衝撃を描き分けられているか |
| 密度 | 強調が増したのか、黒く詰まっただけなのか |
| 長さ・範囲 | コマ全体を巻き込む必要があるか。手や顔のまわりだけで足りるか |
| 規則性 | 整った線で見せたいのか、乱れを演出に使いたいのか |
| 中心の空き・余白 | 見せたいものが、最後まで見やすく残っているか |
同じ「驚き」でも、忘れ物に気づく小さな反応と、目の前で事件が起きる反応では、必要な強さが違います。前者は顔のそばの短い動作線だけ、後者はコマ全体の集中線、と段階を決めておくと、1つの作品の中で強さを描き分けられます。ギャグ漫画で小さな驚きのたびにベタフラッシュを使うと、本当に大きな驚きの番で差をつけにくくなります。
強くする方法は、黒を増やすことだけではありません。次の3つを別々の選択肢として持っておきます。
- 濃くする:線を太く・密にする、ベタを足す
- 広げる:線の範囲を、顔のまわりからコマ全体へ広げる
- 削る:まわりを整理して目や手だけを残し、対比で目立たせる
削った版のほうが、見てほしい所がはっきりすることもあります。
トーンは「何のための灰色か」で選ぶ
ひとことで:貼る前に、固有色・光と立体・質感・心理のどの役割で貼るかを決めると、なんとなくの重ね貼りが減ります。
| 役割 | 例 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 固有色(物そのものの色)の区別 | 髪・服・家具などの色の違い | 同じ人物・同じ物だと見分けやすいか |
| 光と立体 | 顔の影、服の折れ目、床に落ちる影 | 光の向きや形の理解を助けているか |
| 質感・柄 | 布、石、壁、チェックの柄 | 物の特徴が伝わるか。細かさが邪魔になっていないか |
| 心理・象徴の背景 | 花、光、暗いグラデーション、抽象的な模様 | 現実の背景ではなく、気持ちの演出として働いているか |
これは貼り分けを考えるための整理で、1枚のトーンが服の色と影を兼ねることもあります。
現実に色が付いているものを、すべて灰色にする必要はありません。服の色を省く、背景の濃淡を簡単にする、という選択肢もあります。一方、いつも灰色の髪で描いている人物を理由なく別の濃さにすると、描き分けがあいまいになります。人物ごとの基本のトーン(髪・制服など)と、照明や演出で変える分は分けて管理します。
トーンの種類は、感情ではなく機能で選ぶ
| 種類 | 向いている使い方 | 確かめること |
|---|---|---|
| 網点 | 服の色、影、背景の明暗など、まず均一な面として整理したい所 | 主役との明暗の差が残っているか |
| グラデーション | 照明(夕方の空など)や、気持ちの圧迫を表す濃淡の変化 | 照明か心理かを決めてから、向きと範囲を決めたか |
| 万線(平行線のトーン) | 濃淡と同時に、線の向きを持たせたい所 | 線の向きが、人物の動きや構図とぶつかっていないか |
| 砂目(細かい粒を散らしたトーン) | 網点とは違う、ざらついた表面感 | 細かい粒が、顔の線とぶつかっていないか |
| 柄(花・光・幾何学模様など) | 写実的な背景とは別の、気持ちの演出 | 人物の反応や場面と合っているか |
花の柄を貼れば必ず幸せ、暗い模様を貼れば必ず悲しみ、とは決まりません。同じ花の柄でも、恋愛ものの笑顔に添えればときめきに、うつろな表情と組み合わせれば不穏なコマになります。
線数と濃度は別のもの
網点のトーンは、主に「線数」と「濃度」の2つの数で決まります。線数は網点の細かさで、1インチの中に点が何列並ぶかを表し、数が大きいほど点は細かくなります。濃度は黒い点が面をどれだけ占めるかで、数が大きいほど暗くなります。
この2つは、片方ずつ変えて見比べると違いがつかめます。
- 同じ60線で、10%と30%を比べる:細かさをそろえて、明るさの違いだけを見る
- 同じ10%で、30線と60線を比べる:濃度の数字をそろえて、点の細かさの違いだけを見る
MediBang Paint の初心者向けの講座でも、線数だけ・濃度だけを変えたトーンを並べて違いを説明し、日本の漫画では60線のトーンがよく使われる、と紹介しています(MediBang Paint「初心者マンガ講座15 トーンを貼ろう」)。
ここで挙げた数値は、比べる練習のための例です。「肌は10%」「漫画は必ず60線」のような決まりではありません。先にどのくらいの明るさに見せたいかを決め、そのあとで仕上がりの大きさに合う細かさを選びます。


感情と効果は「組み合わせ」で考える
ひとことで:感情の「種類」と「強さ」を分けて決め、効果線・トーン・白地を組み合わせて組み立てます。
次の表は、試せる組み立ての例です。感情ごとの正解や、必ず使う記号ではありません。
| 表したい状態 | 組み合わせの例 | 強すぎたときに見直す所 |
|---|---|---|
| 喜び・期待 | 細い集中線、光の模様、広めの白地 | 強い線が、喜びより衝撃を前に出していないか |
| 激しい怒り | 太い集中線、鋭い動線、部分的なベタ | 眉・目・口など、怒りを演じる所を隠していないか |
| 静かな怒り | 効果線を抑え、目元の影と手の力みを残す | 流線や大きな効果を足して、爆発する怒りに変えていないか |
| 悲しみ・喪失 | 整理した白地、抑えた濃淡、必要な所だけの影 | 表情より背景の模様が主張していないか |
| 楽しさ・軽さ | 小さな動作線、軽い反応のくり返し、必要な柄 | 小さな反応まで、毎回大きな見せ場にしていないか |
| 驚き・発見 | 視線の先への集中線、まわりとの明暗の差 | 「何に気づいたか」が効果に埋もれていないか |
| 不安・恐怖 | 不規則な線、縦線、黒い面 | 静かな不安を狙ったのに、大音量の恐怖になっていないか |
| 穏やかさ・余韻 | 効果を抑え、必要な陰影と空間を残す | 省きすぎて、場所や行動まで分からなくなっていないか |
感情の種類と強さを分けて決める
同じ怒りでも、「思わず叫ぶ」「言葉を飲み込む」「冷静に相手を問い詰める」では、必要な演出が違います。言葉を飲み込む人に太い集中線を付けると、怒りを抑えている演技が消えてしまいます。素材を選ぶ前に、人物が感情をどのように外へ出しているのかを決めます。
見せ場は感情の名前ではない
喜びにも悲しみにも、静かな決意にも見せ場があります。見せ場だから必ずベタフラッシュ、ではなく、何を強めればその場面がいちばん伝わるかで選びます。恋愛ものの告白なら、細い集中線と広い白地で相手の顔だけを残すほうが伝わることもあります。見せ場そのものの作り方(基準と落差)は「漫画のネームの演出」で扱っています。



見せ場だからって、集中線にベタフラにグラデまで全部のせるの、ほんとダメだよぉ。いちばん働いてほしい効果を、先に1つ決めようねぇ。
使いすぎを判断する6つの基準
ひとことで:量ではなく、主役・感情・読む順番を「助けているか、邪魔しているか」で判断します。
「トーンは何種類まで」「効果線は画面の何%まで」と一律に決めるより、狙いに対して働いているかで判断します。画面の密度を上げることは、表現の充実にもなります。一方で、デジタルでは手軽に貼れるぶん、画面全体が灰色になりやすい、ともよく言われます。判断したいのは量ではなく、必要な違いや強弱が失われていないかです。
① その効果を消すと、何が変わるか
効果のレイヤーを一度非表示にして見比べます。情報が減ったかだけでなく、動きの勢い、気まずさ、笑いのタイミング、場面の重さがどう変わったかも見ます。
- 消しても狙いがほとんど変わらず、むしろ顔や動作が分かりやすくなる:削る候補
- 情報は同じでも、感情の温度が大きく変わる:役割がある
「装飾だから要らない」「説明だから要る」と決めつけず、その効果が何を担っているかを確かめます。



ほえ〜、レイヤーを1回消してみるだけで分かるんだねぇ。消したほうが顔がよく見えたら、その線はお休みしてもらお〜。
② 顔・手・大事な物より目立っていないか
見せたいのが表情なら、目と口が読めることを優先します。手の震えが大事なら、指先とそのまわりを整理します。脇役のはずの効果線が太すぎると、主役の人物より目立ってしまいます。試す順番は、まず主役のまわりを少し抜き、それでも足りなければ線の密度や太さを調整します。人物の輪郭を太くして対抗すると、画面全体が重くなりがちです。
③ 白・灰色・黒の差が残っているか
人物・背景・服・影をすべて似た灰色にすると、何を前に出したいのかがあいまいになります。縮小表示にして、細かい模様ではなく、明暗の大きなまとまりを見ます。主役を明るく残すのか暗くまとめるのか、背景との境目は見えるか、休める白や締まる黒が要るかを確かめます。直し方は「もっと濃いトーンに変える」だけでなく、背景のトーンを外す、貼る面積を狭くする、影を1つの面にまとめる、もあります。
④ セリフと読む順番を邪魔していないか
フキダシとの関係も確かめます。文字の近くの細かい模様や、フキダシの輪郭にかかる大量の線が、セリフを読む邪魔になっていないか。強い集中線の先に視線が飛んで、先に読むべきセリフを飛ばしそうになっていないか。確かめるときは、セリフまで入れた完成に近い状態で、ページの頭から読み直します(フキダシの置き方は「漫画のフキダシの描き方」)。
⑤ 前後のコマとの強弱がなくなっていないか
1コマだけなら格好よくても、前後がすべて同じ強さだと、どこが特別なのかが伝わりません。ページの漫画ではページや見開き、縦スクロールの漫画では前後に表示される範囲を含めて比べます。驚きの直前に平静な場面を置く、激しい動きのあとに静かな反応を置く、のように、効果の量だけでなく場面の組み合わせで差を作ります。
効果が少ないコマが弱いとは限りません。大事な一言を白地に置くように、引いた表現を強調に使う設計もあります(コマの大小と間の作り方は「漫画のコマ割りの基本」)。
⑥ 最終的な大きさで成り立っているか
拡大して描いているときの見やすさと、読者が見る大きさでの見やすさは、別々に確かめます。小さくすると、目元の影と縦線が1つの黒い塊に見える、細かいカケアミが輪郭と混ざる、といったことが起きます。印刷するなら試し刷り、Web に載せるなら掲載する大きさにした画像で確かめます。
迷ったら「主役になる効果」を1つ決める
練習のうちは、1つの感情の山に対して、いちばん働いてほしい効果を1つ決めてから、補助を足すのがおすすめです。「1コマ1種類まで」という決まりではありませんし、服のトーンや必要な影まで外すという意味でもありません。主役と補助の区別がないまま、強い素材を次々に重ねるのを避けるための目安です。
足す前と引いたあと
ひとことで:効果を減らすのは画面を薄くするためではなく、どの情報を読ませたいかをはっきりさせるためです。
3つの架空の例で考えます。
例1:大事な事実に気づくコマ
- 狙い:人物が何に気づいたのかを、読者にも伝える
- 足しすぎた状態:集中線・ベタフラッシュ・暗いグラデーション・大きな擬音(描き文字の効果音)を同じ強さで入れる。衝撃は伝わるが、見つけた物が埋もれる
- 引いたあと:「見つけた物を見せるコマ」か「人物の反応を見せるコマ」かを先に決める。物を見せるなら、集中線をその物に向け、まわりの効果を整理する。両方が大事なら、物と反応を別のコマに分ける
例2:泣かずに耐える人
- 狙い:感情を押し殺している状態を見せる
- 足しすぎた状態:大量の縦線、重い黒、涙を思わせる模様を足す。「耐えている人」より「背景が悲しみを説明するコマ」になる
- 引いたあと:背景の効果を減らし、口元・握った指・視線の向きなど、感情をこらえる動作を残す。必要なら目元の影だけを足す
大切なのは「悲しみは白地で描く」という決まりではなく、人物の抑え方と画面の演出の強さをそろえることです。
例3:剣を振り抜くアクション
- 狙い:振りの向きと、当たった瞬間をはっきりさせる
- 足しすぎた状態:剣の軌跡・背景の流線・衝撃の集中線が、すべて同じ強さ。振っている途中なのか、当たった瞬間なのかがあいまいになる
- 引いたあと:振り抜くコマでは軌跡を中心に、当たるコマでは当たった点の強調を中心に、と役割を分ける。同じコマに入れるなら、軌跡と衝撃のどちらを主役にするかを決める
モアレと書き出しの注意
ひとことで:モアレは「貼りすぎ」とは別の問題です。網点の重ね方と書き出しの設定を確かめ、最後は投稿先や印刷所の指定に従います。
モアレは、網点のような規則的な模様が重なったり、画像を拡大・縮小したりしたときに出る、意図しない縞や模様です。トーンが少なくても起きるので、貼りすぎの問題とは分けて考えます。
CLIP STUDIO PAINT の公式サポートは、主な原因として、重ねたトーンどうしの線数と網点の角度が合っていないこと、網点がグレーになっていること、画像を書き出すときに拡大・縮小の処理を[コミック向き]以外にすることや、書き出した画像を別のソフトで縮小することを挙げ、網点は黒一色にするよう案内しています。また、画面の表示倍率によってはモアレて見えても、100%表示できれいなら印刷の品質には問題がない、としています(CLIP STUDIO 公式サポート「トーンがモアレます」)。
- 網点を重ねるとき:線数と角度をそろえます。同じ設定のトーンをぴったり同じ位置に重ねても、点が重なるだけで濃くなりません。重なり方で濃さが変わるので、「10%を2枚重ねれば20%」とは限りません。影を暗くしたいだけなら、目的の濃さのトーンを1枚貼るほうが確実です
- Web に載せるとき:見せたいのが濃淡なら、網点ではなく、なめらかなグレーで書き出す方法もあります。CLIP STUDIO PAINT の公式サポートでは、Web 用にレイヤーのトーン効果を無効にして、グレースケールで書き出す手順を案内しています(CLIP STUDIO 公式サポート「印刷用に作ったマンガやイラストをWebにアップロードしたいです」)。網点の見た目を残したいなら、掲載する大きさで確かめ、投稿先で縮小されたあとの見え方まで見ます
サイズ・解像度・表現色(白黒2階調かグレースケールか)は、印刷所や投稿先の指定に従います。トーンの設定を残した編集用の原稿と、書き出した画像は分けて保存しておくと、あとで直せます。



ぁぅ……描いてる画面ではきれいなのに、縮めたら縞々が出ちゃうこと、あるんだよねぇ。載せる大きさで、一度ちゃんと見てねぇ。
迷いにくい制作の順番
ひとことで:効果線とトーンを「最後の空白埋め」にしないために、コマの目的から順に決めます。
| 順番 | やること | 確かめること |
|---|---|---|
| 1 | コマの目的を一文にする | 「鍵を見つけたと伝える」「怒りを抑えていると見せる」のように言えるか |
| 2 | 構図・表情・ポーズ・フキダシを先に整える | 効果なしでも、人物の行動と読む順番が分かるか |
| 3 | 白と黒を見て、必要なトーンを置く | 固有色・影・質感のトーンを分け、明暗のまとまりができているか |
| 4 | 主役の効果を足し、まわりを引く | 顔・手・文字など、大事な所が読めるか |
| 5 | 前後のコマと最終の大きさで読み直す | 強調が続きすぎていないか。細部がつぶれていないか。書き出しに問題がないか |
デジタルなら、基本のトーン・影・心理の背景・効果線をレイヤーで分けておくと、比べたり直したりしやすくなります。
練習には、同じコマを「効果なし」「最小限」「強い演出」の3つで作って比べる方法が向いています。たとえばホラーの「ドアのすき間から目がのぞくコマ」なら、白地のまま、目のまわりだけ暗いトーン、ベタフラッシュと縦線、の3つです。最小限の版がいつも正解なのではなく、自分の狙いにいちばん合う版を選ぶのが目的です。
効果線・トーンジェネレーターで試す
ひとことで:集中線の中心や線の太さ・密度、網点の線数と濃さを、1つずつ変えて見比べられます。
この記事の考え方は、筆者が作った「効果線・トーンジェネレーター」で試せます。集中線・ベタフラ・流線・縦線・カケアミ・網点など27種類の効果線とトーンを作れる、ブラウザ用のツールです。無料・登録不要で、PC でもスマホでも使えます。


- 集中線の中心を注目の対象へ:「下敷き…」で自分の絵やコマ割りの画像を下に敷き、プレビューの中をドラッグして、中心を顔や手、落ちた鍵に合わせます。中心は画面の外にも置けます
- 強さを1つずつ変える:集中線の本数・内側の半径・太さ・ばらつき・疎密を、スライダーで1つずつ動かして比べます。内側の半径を大きくすると中心の空きが広がり、顔が読みやすく残るかを確かめられます
- 線数と濃度を分けて比べる:網点の「間隔(線数)」と「濃さ」を片方ずつ動かします。網点はプレビューだと縮んで灰色っぽく見えることがあるので、本当の見え方は保存した PNG で確かめます
- 3つの版を作る:最小限の版と強い演出の版を、背景を透明にした PNG で保存し、自分の原稿に重ねて見比べます。「ガチャ」で別の案を並べると、同じ種類の線の違いを一度に見られます
使い方は説明ページ「効果線・トーンジェネレーター」にまとめています。ツール本体は「効果線・トーンジェネレーターを開く」から開けます。
よくある失敗と対処
ひとことで:多くは「目的を決めずに足す」「同じ強さで重ねる」「最終の大きさで見ていない」の3つから起きます。
| 失敗 | 原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 画面全体が灰色で重い | トーンの役割を決めずに貼っている | 「何のための灰色か」を決め、背景のトーンを外す・影を1つの面にまとめる |
| 集中線の模様が顔より目立つ | 中心と密度が、見せたいものに合っていない | 中心を注目の対象へ移し、内側の線を短くする・顔のまわりを抜く |
| アクションの向きが分からない | 流線で動きを説明しようとしている | ポーズと軌跡を先に決め、流線の向きをそろえる |
| 縮小や印刷でつぶれる・縞が出る | 描いている大きさでしか確かめていない | 掲載する大きさや試し刷りで確かめ、書き出しの設定を見直す |
チェックリスト
ひとことで:効果線とトーンを入れたら確かめる8つの項目です。
- [ ] コマの目的を一文で言える
- [ ] 主役になる効果を1つ決めてから、補助を足した
- [ ] 集中線の中心を、コマの真ん中ではなく見せたいものに合わせた
- [ ] 流線の向きが、ポーズと動きの軌跡に合っている
- [ ] 貼ったトーンが、固有色・光と立体・質感・心理のどれのためか言える
- [ ] 効果のレイヤーを消して比べ、残す理由を確かめた
- [ ] セリフまで入れた状態で、前後のコマと続けて読み直した
- [ ] 印刷なら試し刷り、Web なら掲載する大きさで確かめた
迷ったときは、「このコマでいちばん見せたいものは何か」「そのために、この線やトーンは必要か」「足したあとも、それがいちばんよく見えているか」の3つに戻ります。引き算は画面を薄くする作業ではなく、読者に受け取ってほしいものを、はっきり残すための作業です。



ふぁ……効果線もトーンも、「何を残して見せるか」で選べば、だいぶ迷わなくなる……かなぁ。まずは1コマを3つの版で作って、比べてみてねぇ。連載はこれでおしまい、おつかれさま〜。
次に読む記事
連載「漫画の画面設計」の5本です。
- 漫画のコマ割りの基本とコツ|読む順番・大ゴマ・間(テンポ)の設計
- 漫画のフキダシの描き方|形の意味と、読む順番を崩さない置き方
- 漫画のネームの演出|カメラの高さ・距離と「基準と落差」で見せ場を作る
- キャラのポーズの描き方|感情から体の向きを決めて、見せ場を作る
- 効果線とトーンの使い方|線の種類が伝える感情と、使いすぎない基準(この記事)
ツールの一覧は「自作ツール」にまとめています。





